大地の陽番外編 | ナノ


 



「重衡さん!!今日はどこに行きますか?」


久々に会うなり行き先を尋ねてくる、子犬の様に輝く眼を見て重衡は微笑んだ。


「先日見つけた場所がありますが。ゆきさんに気に入って頂けると思います」


参りましょうか、と手を差し出す。
にっこりと笑って繋がれる小さな手。



‥‥‥ずっと、離さずにいられたら。










暖落葉の刻











赤に、橙に、黄に。

柔らかく色付く葉が織り成す美しい秋。


澄み渡った青空は、まるでゆきの様だ、と思うのは惚れている所以なのだろうか。




「こうして貴女と会うのも久方振りですね」

「本当ですね‥‥‥あ、団子」


ゆきの返事に、会いたかった思いを仄めかすつもりでいたのだが。

路地の店先に漂う好物の匂いに、彼女の気は逸れた。


幾分か残念に思い苦笑しながら、団子の代金を支払う。


「どうぞ」

「え?いいですよ、お金持ってるし‥‥‥」

「私がそうしたくて勝手にしているのですから‥‥‥ご迷惑でしたか?」


心底済まなそうな表情をわざと浮かべると、


「と、とんでもない!!ありがとうございますっ!」


慌ててゆきは串を受け取る。


そんな仕草すら、彼女のものだと愛らしくて、眼が離せなくなる。

‥‥‥そう気付いたのは、いつの事だったか。




自分は平家。

ゆきは源氏。



互いに気付いていながら、口に出す事はない。

尤も、彼女は気にしてないようだが。


「団子、着いてから食べますね!」

「ええ。もうすぐですから、固くなる前に着くでしょう」

「ほんと?良かった」



片手に一本の串団子。
片手に重衡の手を握って、

ゆきは嬉しそうに笑う。



「ゆきさん、何か嬉しい事でもありましたか?」

「だって重衡さんと会えるのが久し振りで、嬉しくって」


心底から嬉しいと笑う。

‥‥‥ゆきは無防備過ぎる。


彼女に恋憂る男が、その一言で何を思うのか‥‥‥きっとわかりはしないのだろう。


「私も、ずっと貴女に逢いたかった」


重衡が呟くと、一層深くなるゆきの微笑。


思わず、繋いだ手に力を込めた。


 

  
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