大地の陽番外編 | ナノ








もしも、


この運命をやり直せるような、便利な道具があるのなら―――‥‥‥





こんな色んな意味で痛い現実を

突き付けられずに済むのだろうか。




将臣は真剣に考えた。






いざ、酔いの君





頃は春。
時刻は西陽が差し掛からんとする頃。

六波羅に向かい歩く男二人。
どちらも見目麗しい事から、行き交う女性が振り返っていた。





「将臣殿、随分度が過ぎたようですね」

「うるせぇ‥‥歩けるから問題ないだろ」

「‥‥‥とは言っても、真っ直ぐ歩けないではありませんか」


よろよろ、と歩く将臣の腕を重衡が引く。


「‥‥‥んだよ、大体お前のが飲んでんだろうがっ‥」


そう、重衡の昔馴染の貴族の邸で、二人は出された酒をしこたま飲んだ。


(コイツはなんでケロッとしてんだよ)


確か重衡は、それこそ浴びる様に飲んだ筈。


なのに普段と変わらず穏やかに微笑む重衡を、半ば千鳥足の将臣は睨み付けた。






(‥‥‥ん?)


重衡の向こうに、見慣れた少女がこちらを見ているのに気付く。

眼が合うと、心底嬉しそうに手を振りながら走って来た。


「あ、やっぱり!!将臣くん!重衡さん!」

「ゆきじゃねぇか!久し振りだな!」

「‥‥‥ゆきさん?」

「お久し振り!」



目の前に立ち、にこにこと笑う彼女はゆき。

元いた世界では、将臣の後輩‥‥譲の同級生の少女。


京で再会した二人は、時々約束を交わして会っている。

時々は重衡も交えながら、のんびり花を見たり、買い食いしたりと。




思いも掛けない再会に、将臣の酔いはすっかり醒めた。


「もう日が暮れるぞ。一人で大丈夫なのか?」

「一人じゃないから大丈夫!」


誰かと一緒なのか、と将臣は聞こうとして―――








「ゆきさん?先に行ってはいけないと言ったばかりなのに」

「あ、そうだった!すみません、弁慶さん」


ゆきの背後からその肩に手を置く男に、将臣の眼は強くなった。




「おい‥‥」


視線に気付いているのかいないのか。いや、多分わざとだろう。

泰然とした笑顔で、弁慶は将臣を見ている。







ゆきはそんな男二人に気付きもしない。

にこにこと笑いながら手にしていたものを広げて見せた。



「見てみて将臣くん!可愛いでしょ?弁慶さんが買ってくれたの!」



この言葉により、初めて互いの名前を知る将臣と弁慶。
ゆきはよほど嬉しいのか、二人‥‥‥
いや、先程から黙っている重衡を含め三人が初対面である事など、頭の中から綺麗さっぱり消えている。


将臣は諦めの溜め息を吐くと、手のひらを覗き込み顔をしかめた。


「‥‥‥えらくリアルな蛙だな‥‥‥」

「うん!!可愛いよね!!」


彼女の手にあるもの。

それは親指の先っぽ程の、蛙の木彫だった。
赤茶色に彩色しているそれは将臣の言う通り、リアルなウシガエルのように見える。

‥‥‥どちらかと言えばかなり不気味なのだが、満面の笑顔を浮かべたゆきには言えなかった。


「そ、そうだな!‥‥‥ははは」

「本当に可愛いなぁ‥‥‥クララっ」

「クララね‥‥‥‥‥‥‥‥‥クララ!?」


間違えてもそんな可愛いものじゃない。


「一緒に寝ようね〜、クララ!!」


小さな木彫の蛙に囁きかけ、頬擦りまでしているゆき。

将臣はそんな彼女(の頭)が可哀相になってきた。











「‥‥‥お美しい‥‥」


突然割って聞こえた重衡の声。


「「はいぃ!?」」


二人同時に声を上げる。



(クララか?このぶっさいくなクララの事か重衡!?)

(重衡さん‥‥‥クララに眼をつけるなんて、センスいいよ!クララはお嫁にあげないけど!)


などと思いながら振り返った、将臣とゆき‥‥‥







そこにいたのは

片膝をつき、見上げるような体勢で、弁慶の手に口接けを送る重衡と




「足もお舐め」と言わんばかりの悠然な微笑を浮かべて、手に口接けられている弁慶の姿だった。



将臣もゆきも言葉が出ない。





 



  
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