大地の陽番外編 | ナノ


 


ゆきは面白い。
黙っていれば可愛いと思う。





思えば始めて会った時から、ゆきは意表ばかり突いてきた。




抜けてるくせに意外な所で鋭くて、

陰陽師として繊細な術を使うかと思えば、普段は適当過ぎるし


迷子になるのは日常茶飯事らしい。




望美や朔のように、女らしくなんてない。









・・・ただ、その笑顔は

また見たいと思わせる。





興味はあるけど女としてではなかった。








花のように笑う君
〜SIDE HINOE〜










六波羅で初めて出会った時

あまりにも鈍くさいゆきに見兼ねて、
成り行きで彼女の仕事を手伝った。



「今日はありがとね、ヒノエ」

「姫君の為ならなんでもするよ。またね、ゆき」



さよならと言わなかったのは、
また巡り会うと分かっていたから。












数日後、望美と六波羅で会う。

望美の友人であるゆきとも再会を果たした。





ゆきの隣には、当然の様にあの男が立っていたのは気に食わなかったが、


彼女が自分を見て嬉しそうに笑うのは、気分が良かった。














「ヒノエ、そこにいるんでしょう」


自分が八葉だとわかり、望美の請うまま同行を共にすると決めた日の夜。


月の明かりが仄めく梶原邸に、静寂が訪れた中庭で
あの男は声を掛けてきた。


「やっぱりね。来ると思ったぜ」



六波羅でゆきと何かあったのか、と聞いてくる弁慶の態度にヒノエは違和感を覚えた。


「あんたは‥‥‥」

「僕はゆきさんの恋人じゃありませんよ」

「その割には随分気にしてる様に見えるけど?」

「そうですね‥‥‥でも、僕は彼女を好きじゃありません。これからも、ずっと」


浮かぶ月の様に醒めた眼差しで、弁慶はヒノエを捉える。

何を考えているのか全く読めない、腹に一物どころか三物は抱えている男。

いつも笑顔を絶やさず、特に女性には何より優しく接する男。




その彼の、珍しく苛立ちを宿した眼を見た時、




彼にそんな顔をさせるゆきの事を、もっと知りたいと思った。










「姫君、今日は出かけるのかい?」

「うん。鴨川の水源が呪詛で荒らされて、どーのこーのと小難しい事を師匠が言ってたから、調査に行ってくる」


大好物の山菜ご飯を頬張りながら、ゆきはヒノエに返事した。


水源が汚されるなんて重大な事だろう。なのに、

『どーのこーのと小難しい事』

と一括りにするゆきにヒノエは苦笑した。
この大雑把さが、清々しいほどゆきらしい。



「ゆきちゃん、大丈夫?私も行くよ?」

「ありがとう。望美ちゃんが来てくれたらすぐに片付くけど‥‥大丈夫。師匠と一緒だし」

「でも‥‥」

「望美ちゃんは働き過ぎなんだから、たまには休んでて。ね?」


望美に返すゆきの言葉が、揺れている気がした。


「そう‥‥‥‥お言葉に甘えて、休ませて貰うね。ありがとうゆきちゃん」

「‥‥本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ、ありがとう」



望美の隣に座る譲がゆきに目を遣る。

譲もこの頃少し変だ。
妙にゆきを気にしている。
腫れ物を扱う様な、後ろめたいのを誤魔化す様な。



相変わらず望美を追いかけているが、ふとした拍子にゆきを見る時がある。



(オレの目敏さも考えもの、ってね)

この微妙な空気に気付いているのは自分だけかもしれない。




「気をつけて行きなよ、ゆき」

「うん!ありがとう、ヒノエ!」


ここでやっとホッとして微笑うゆきに、ヒノエも顔を綻ばせた。

癖のない、真っ直ぐな栗色の髪を撫でる。
照れ隠しに箸を進めるゆきの頬が仄かに赤くなるのを見て、ヒノエは内心にんまり笑った。







「師匠の言葉をよく聞けよ、ゆき」

「へ〜へ〜、九郎さんのおっしゃる通りにしますよ〜」

「なっ・・・・・お前は相変わらずだな」

「気をつけてね」

「朔ありがとう!行ってきます!」




ご馳走さま、と席を立つゆきが一瞬だけ弁慶を見た。
何かを言いたそうに口を開きかけ―――諦める。

そのまま器を片付けに行く彼女に、目もくれず泰然と食事する弁慶。

これが近頃の日常だったりする。





『少し前まであれ程仲良かったのにどうしたのかしら』

朔が不思議そうに首を傾げる程に、皆も異変に気付いて居るらしい。


(姫君にあんな表情させるなんて最低だね‥‥‥‥ま、葛藤でも何でもしときなよ。

その間に掠め奪られても知らないぜ?)


そう

例えば、自分が。




 

  
戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -