大地の陽番外編 | ナノ









「おまつり?」

「‥‥付いて来て欲しいんだけど、どうかな?」

オレが、ゆきからの誘いを断るはずはないね。




おまつり噺





ゆきとの約束の刻は夕暮れ。

少し早めに着いたヒノエを待っていたのはゆきではなく、表情と内心が見事に一致しない軍師様だった。


「‥‥‥‥なんであんたがいる訳?」

「ゆきさんに誘われましたから」

「はぁ?」

「君も一緒なんでしょう?あまり嬉しくありませんが仕方ないですね」

大人しくしてくださいね、と諭してくる弁慶に、ヒノエは頭が痛くなる。





一体何を考えているのか、ゆきは。
ヒノエとこの叔父が顔を突き合わせればどうなるか、解っている筈なのに。

はぁ、と溜め息を吐くヒノエの耳に聞こえた軽い足音。


「ヒノエ、弁慶さん!遅くなってすみません!」


(しょうがないか)

息も荒く走ってくる少女を見ると、目元がつい優しくなる。
それは、彼女に甘い隣の人物も同じなのだろう。


「いいえ。僕達も、来たばかりですから。ねぇ、ヒノエ?」

「あぁ」

この男に同意するのは癪なので、短く返事をするヒノエに、ゆきが気遣わしげな目を向けた。



「ヒノエ、何か悪いものでも食べた?便秘?」

「‥‥‥‥‥‥いや。なんでもない」



‥‥鈍くて大雑把なゆきに、気付けと言うのも無理な話なのだろう。


「そっか。じゃあ行こう?」

「‥‥‥そうだね」

「行きましょう」

傍目には仲良し三人組が、ゆきを挟んで歩き出した。







ゆきがいない。

‥‥最初は誰かに拉致されたのかと思った。それか、迷子になったか。

「ヒノエ、ゆきさんがいません」

同時に気付いた弁慶がこちらを見てくる。


「‥‥‥オレはあっちを探してくるぜ」


背後でわかりました、と叔父の声を聞きながらヒノエは駆け出した。

迷子になった彼女をこうして探すのは、一体何度目なのか。














夏の夜の縁日は、どうしてこんなに心踊るんだろう。


「もしかして‥‥はぐれた?」


どうやら、浮かれ過ぎて迷子になってしまったらしい。

(怒られるだろうなあ)

人の波から数歩離れた木の下で、探しに来るのを待つ事にした。

暇なので、ぼんやりと祭りの様子を眺める。沢山の提灯と簡易な露店が立ち並んぶ。
時は違っても、自分の知る祭とあまり変わらないな、とゆきは懐かしく思う。


「‥‥おてて放しちゃ駄目よ」

「はぁい」

目の前を、子供の手を引いた若い母親が通り過ぎて行った。
幼い頃の自分を思い出す。
ああやって、父と母と三人で手を繋いで歩いたっけ。

‥少しだけ感傷に浸った。



 

  
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