大地の陽番外編 | ナノ


 


「あ、あの‥‥有川くん。これから予定ある?」


一日の活動を終えて夕食を済ませ、厨で後片づけをしている譲の元へとゆきがやってきた。


「特に用はないけど。どうしたんだ?」


長身の譲は少しかがんで、俯いているゆきの顔を覗き込んだ。


「‥−−っ!!」


真っ赤なゆき。


「顔が赤い‥‥‥熱でもあるんじゃないか?」

「な、ないよ!!大丈夫!!
それよりもしよかったら今から一緒に出かけない?付いてきてほしい場所があるの」

「これから?もう真っ暗だぞ」

「う‥‥うん。だめかな?」


しゅんとするゆきがなんだかかわいくて、譲は破顔した。


「いいよ。俺でよければ護衛も兼ねて付き合うよ」

「ありがとう!有川くん!!」



今日は7月17日。








「‥‥で、どこにいくんだ?」


月明かりを頼りに二人、肩を並べて歩き出す。

外灯のないこの時代の夜、月の明かりがぼんやりと辺りを照らす様は元いた時空では見られない。

数日前に皆でたどり着いた熊野の地は豊かな自然を有しており、夜になっても尚、濃厚な森林の香を漂わせている。


(元宮の用事ってなんだろう)


だんだん森の奥地へと入っていくのが気になって、譲は隣のゆきに目を向ける。

薄闇の中でも判る、上気した頬。
この先がよほど楽しみなんだろう、目がキラキラ輝いている。



心臓が少し跳ねた。



「元宮‥‥いったいどこへ行くんだ?」

「まだ秘密さっ」


こっちを向いて悪戯っぽく笑う少女。


(こんな所は変わってないな)


なんだか安心する。

最近の彼女は自分の知らない表情をする。


クラスメイトで妙に気が合って、そしてあの日一緒に激流に呑まれてしまった。


望美と宇治川で再会したが、ゆきと兄の将臣には会えず、
春の京で再開したときには彼女は少し変わっていた。

同じ年だった筈なのに、彼女は京で先に一年大人になっていた。



以前は肩までだったのに、背中の中ほどまで伸びた栗色の髪。

時々見せる大人びた横顔。

記憶より、女らしく柔らかさを備えた肢体。



そんな彼女に追いつこうと焦ってしまう自分がいる。

理由は、わからないけど。



「疲れてるのにごめんね、もうすぐ着くから‥‥‥」


考え事をしている譲に、申し訳なさそうな声がかけられる。


「あ、ああ、ごめん。ちょっと考え事をしてたから‥‥」

「そっか」


ゆきは微笑った。





  
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