大地の陽番外編 | ナノ







ゆきは面白い。
黙っていれば可愛らしいと思う。


初めて会ったその日から、僕の中を燻らせる。



これからどう花開くのか
興味が湧く、今のところ唯一の存在。






ねぇ、ゆきさん。
僕が守ってあげましょう。




君の笑顔が見られるのなら。








花のように笑う君
〜SIDE BENKEI〜










「弁慶さん!おはようございます!」



庭で薬草『狩り』(薙刀)をしていた弁慶を見つけて、走ってくるゆき。
花開くような笑顔は無条件に愛らしい。


まるで子犬のような、人懐っこくて可愛い君。


「ゆきさん。そんなに走るとまた転び 「ぎゃぁぁぁっ!」‥‥‥‥‥ましたね」


地べたに這いつくばる姿は面白い。


「‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥ぷっ」

「‥‥痛い‥」

「ぶふふふふっ」


爆笑しそうになって口をすぼめたら、微妙な笑い方になってしまった。
案の定、ゆきは拗ねている。


「弁慶さん笑いすぎ!!」


恥ずかしくて真っ赤な彼女がますます弁慶のツボにはまり、笑いが止まらない。


「全く笑い過ぎだよね、いつも。何処かの柿好きの単純大将と言い、暑っ苦しいほっかむ‥‥‥あっ」


慌てて口を押さえるゆき。独り言のつもりだったのだろう。やけに大きな独り言だが。





「何処かの柿好き単純馬鹿大将は早朝の鍛練に出て、今はいませんが」

「馬鹿までは言ってません‥」


にっこり。
一番優しい笑顔を(わざと)浮かべる。


「あはは‥‥わ、私、朝ご飯を手伝ってきま 「さあこの黒いほっかむりが、君の膝の手当てをしてあげますからね。黒いほっかむりが」‥‥‥‥ぎゃあぁぁっ‥‥」


後ずさるゆきの右手首を掴んで、弁慶は自室へと引きずっていく。


「わっわたしは大丈夫ですから!!こんなもの唾でも付けたら治りますって!」

「では、僕の唾をつけてあげましょうね」

「げっ‥‥‥‥‥ごめんなさい、べんけっ‥‥じゃなかった、ほっかむりさん!!‥‥‥‥‥‥あれ?」


よほど焦っていたのだろう。そう、名前を言い間違える程に。


「ふふっ」



慌てる姿は、心底可愛くて仕方ない。
もっと困らせてみたくなる。








(一番染みる消毒薬、まだ残っていたっけ)













先日、『九郎』という被検体に大量使用した薬の在庫を気にしながら、ゆきを引きずって行った。



「逃げても無駄ですよ。治療は僕の仕事ですから」



安心させるように、微笑んで頭を撫でてやれば、首を傾げている。



「何でだろう‥‥優しい顔なのに修羅が見える‥‥‥」



いい度胸だ。最近言いたい放題になってきた。
いわゆる反抗期という物なのだろうか。






「君の事が心配なんですよ」


だれよりも。

それは嘘じゃない。















「違うって!よく聞いてね‥‥‥だよ。わかる?」

「め‥めい‥‥‥ぶ!‥‥‥‥かい?」

「うん、いいね!練習したらばっちりだよ!」




廊下を歩く弁慶の前方に、ゆきとヒノエが話し込んでいた。
二人は気が合うらしい。
弁慶の知らないうちに仲良くなった二人は、最近よく一緒にいる。


何かを熱心に話して、笑い声を上げたヒノエがゆきの頬を撫でた。


「お前はホント面白いね!サイコーだよ」




‥‥‥‥‥‥‥




「まあねって‥‥‥‥え、弁慶さん?」

「‥‥‥‥げっ‥‥」



暗雲立ち込める空気に振り向いた二人が見たものは、怨霊よりも恐ろしい生身の人間だった。




「楽しそうですね。僕も混ぜて頂きませんか?」

「じゃ、オレは行くから」

「あ、私も九郎さんに用事‥‥‥っぎゃあ!」



二人が逃げようとしたので、取り敢えず手近なゆきの腕を掴んだ。



「ゆきさん?膝の傷を見せて下さいね」

「‥‥‥‥‥‥‥ヒノエ!助けて!」

「悪い!京の何処かでオレを呼んでる姫君の声がするんだ!」

「何その中途半端なヒーローが吐きそうな台詞!?大体それを言うなら『今日も何処かで』でしょうが!」

「ひいろ?確かにオレの髪は緋色だけど『中途半端』はないんじゃない?」

「緋色じゃなくてヒーロー!!てゆうか目の前にヒノエを呼んでる姫君がいるよ!ほらここに!」

「男は常に新しい花を求める憐れな蝶なのさ」

「うっわヒノエが言うと嫌味ないから逆に腹立つん 「もういいですかゆきさん?」」

「‥‥ゆき‥‥‥悪い!!骨は拾ってやるからな!!」

「ヒノエぇぇ!‥‥‥ひどい‥‥」


えぐえぐと泣くゆき(嘘泣き)の手首を引きずって自室へと向かう。







「ほっかむり」

「‥‥‥」

「腹黒」

「‥‥‥」

「陰険大魔王」

「新薬の実験体に?」

「すみませんでした弁慶様」



弁慶はクスクス笑った。



「これだから君は観察していて飽きないんですよ」

「‥‥‥」


私はペットかい!!
と心の中で激しく突っ込んだが本人には聞けなかった。
たぶん、答えを聞かなくて正解だろう。





「英語を教えてたんですよ、ヒノエに」

「えいご、ですか?」

「どんな言葉かは後でヒノエが話すんじゃないかな?お楽しみにして下さい」

「そうですか。じゃあその時に。‥‥‥ところで、『えいご』とは何ですか?」


ゆきは満面の笑顔を浮かべた。
何故か弁慶の胸が、少し高鳴る。
桃色の唇が、少し高めの声が、言葉を紡ぐ。


「それはね‥‥‥」


 

  
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