大地の陽番外編 | ナノ







ゆきは面白い。
黙っていれば可愛らしいと思う。



初めて会った時からこの気持ちは変わらない。

女と意識せず側にいられる唯一の存在。




なぁ、ゆき。
俺が守ってやるからな。








お前がいつでも笑顔でいられるように。





花のように笑う君
〜SIDE KUROU〜





「九郎殿、ゆきを起こして来て下さらないかしら。全然起きないから大変なんだけど」



早朝の鍛練を終えた九郎は、京邸へやってきた。
朔と譲が朝餉の支度をしていて
「九郎さんもよろしければご一緒にどうですか?」
と言うので好意に甘える事にしたら、冒頭の言葉。

「しかし、仮にも婦女子の寝室に‥‥‥」

渋った九郎に

「九郎殿なら安心ですから」

と朔が爽やかに言い切った。



(誰が相手なら危険なんだ?)


恐らく、頭文字にヒとか弁とか付く人物あたりだろう。


「わかった、起こして来よう。‥‥景時と望美はどうする?」

「兄上は夕べからいないわ」

「先輩は僕が起こしますから大丈夫です」


(譲‥‥なんて解りやすい奴なんだ)


九郎は憐れんだ眼を譲に向けた。
周りから同じ様に思われている事など、九郎自身は露ほども気付かずに。







軽い足取りで九郎は向かう。
異世界より京にやってきた、妹のように愛しく思うゆきの寝室へ。





ゆきが物音で起きる事を願いながら、わざと力を入れて部屋の戸を開けた。硬い音が響く。


「ゆき、起きろ!」

「‥‥‥」

「おい!朝だぞ!」

「うー‥ん‥‥」




(起きない‥)





仕方ない、と溜め息をこぼして部屋に入った。
寝苦しかったのか、ゆきの姿は凄まじかった。

既に寝具の上にはいない。


部屋の隅で大の字で仰向けになっている。
着物の裾が割れ、あと少しで腿が見えそうになっていた。
男前と言うか、豪快な寝姿。


「‥‥仕方のない奴だな」


やれやれと言わんばかりの声音で、小さな肩を揺さぶろうと手を伸ばす。





「へぇ。アンタに寝込みを襲う趣味があるとはね」


振り向くとヒノエが腕を組んで戸口に凭れかけていた。


「馬鹿!起こそうとしているだけだ!」

「‥‥‥アンタが?」

「ああ。朔殿に頼まれたからな。なかなか起きないらしくて困ってたんだが。‥‥‥おい、起きろゆき」


ヒノエが僅かに目を見開く。
女性に免疫がなくていつも望美達を相手にうろたえる潔癖な九郎が。
女性に触れられるだけで硬直するあの九郎が。
ゆきの部屋に入り、眠る彼女に触れても動揺しないなんて、普通ならあり得ない。


「‥‥‥へぇ、なるほどね」

「なんだ?」

「別に。先に行ってるぜ」






(なるほどね)


九郎にとってゆきは‘女’じゃないといった所か。


(道理でアイツが、九郎にゆきを任せて平気な訳だ)


腹黒い叔父がどんな理由であれ、ゆきを気に入っているのは明白だ。
そしてお気に入りの物を、他人に触られるのを気に入らない質である事も、幼い頃からヒノエは知っている。



その弁慶が、九郎とゆきには干渉しない訳は。




(ま、頑張りなよお兄さん。あの根性悪から姫君を守ってやりな)


先が楽しみだと一人でクスクス笑った。


 

  
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