大地の陽番外編 | ナノ


 





「‥‥‥で?」

「うん‥‥‥」


こちらを見上げて眼を潤ませて、まるで小動物みたいだ。
よっぽど切羽詰まっているのだろうか。

その姿を見ていると何だか可哀相に思えた。


「仕方ないな。俺も一緒に探すよ」

「え‥‥‥いいのっ!?」



(そんなアイフ〇の犬みたいな眼で見られたら、仕方ないだろ)


ぱぁっと輝くゆきが昔テレビで見た、某金融機関のCMのチワワにそっくりだとは流石に伏せておく。
捨てられた子犬を放って置くなんて、出来る訳がない。


‥‥‥仕方ない。


この一分間で三度目の『仕方ない』溜め息を吐いた。





秘密の片棒を担ぐのは、本当は気が進まないけれど。


何故なら‥‥‥






願いはいつも









優しい陽差しの午後。


六条堀川で、執務を終えた弁慶が京邸の門を潜った時に、それは聞こえた。




「う〜ん‥‥‥ないなあ‥」


(‥‥‥ゆき?)


くぐもった声は最愛の少女のもの。


視線を巡らせる。
声の持ち主は、庭の植え込みに頭を突っ込んでいた。
弁慶の視点からは四つん這いになった後ろ姿。


「‥‥‥ふふっ」


それが童のようで、自然と笑みが零れる。


何か探しているのだろうか?
だとすれば手伝おうか。

元々、今からの時間を彼女と過ごす気でいたのだから。


そう思い開き掛けた弁慶の口からは、言葉が出て来る事はなかった。



「元宮、そっちは探したから」

「ほんと?じゃあ後は‥‥‥」

「あっち。あの植え込み辺りはまだだと思う」

「うん!」




(‥‥‥‥‥‥譲くんと一緒に何を‥?)



春、うらら。



小鳥の声は高らかに。

花は、桃色に薄紅に惜し気もなく彩りを添える。



まさに溢れんばかりの麗らかな季節を呈した、梶原家の庭。




「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」





‥‥‥‥に、似つかわしくない男女が二人。


しゃがみ込んだり四つん這いになったり、明らかに怪しい。
植え込みから頭を抜いたゆきが座り込む。




門を潜ってすぐの場所に立つ弁慶にすら気付いていない。
それが尚更のこと、微かな嫉妬を煽るかもしれない。



「有川くん、そっちは?」

「‥‥‥ないけど。もう一度よく考えてみろよ。本当に庭だったのか?」

「う、ん‥‥‥」




陰陽師で気の流れに敏感なゆき。

なのに、背後に立つ弁慶の視線にやはり気付きもしない。
普段ならばとっくに振り返っているのに。

余程、必死なのだろう。


肩を落としている後ろ姿がとても落ち込んで見えた。



思わず、手を伸ばしたい衝動に駆られる。


けれど実行せずにいたのは、事情を掴む迄の様子見と、ほんの少しの嫉妬心から。



「‥‥‥どうしよう、私‥‥」



涙混じりの可愛らしい声音。

やれやれ、と弁慶は溜め息をついた。





‥‥‥が。


「仕方ないな、もう一度、よく探してみよう」



譲がゆきの肩を抱くのは、



無意識なのか、
好意ゆえか。





(‥‥一度、確かめなければなりませんね)

 



溜め息をもう一つ。
弁慶は足を踏み出した。



  

  
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