大地の陽番外編 | ナノ


 


pm4:30



「・・・・ん・・んんん――――っ!!・・・・・・はぁはぁはぁ・・・・・・」


「そう!いきむのが上手よ、あかねさん!頭の先が見えて来たからもうひと頑張りよ!」


「・・・・・・は、い・・・・・・・っ!・・・・・・・・・」

「あかね」


手をしっかり握りながら泰明はあかねの額の汗をタオルで拭った。

呼ばれて、白衣と帽子を着込んだ泰明が、ゆきの隣に立った時には既に分娩台に上がっており、近くには様々な器具が処置台に並べられていた。
それらを気にする様子も見せずにただひたすらあかねだけを眼に映す。


「や、泰明さん・・・」

「あと一息だ・・・・・・愛している、あかね」

「わた、しも・・・・・・んっ・・・」

「はい、息んで!!」



最後で最大の力を振り絞る。

大量の汗を掻き、髪を振り乱しているあかね。
まさに今、新しい命を送り出している妻が、泰明には最高に綺麗に見える。


「・・・・んんぅ―っ!!」




必死にいきんだ後、
気が抜けた様に弛緩するあかねの背を咄嗟に支えた泰明の耳に、高く澄んだ泣き声が聞こえた。



たった今、この世に生まれ落ちた小さな命は、


元気一杯に祝福の声を上げている。


「元気一杯な女の子ですよ。おめでとうございます!お父さん、お母さん」


仲良しの若い新人助産婦が、赤ん坊を産湯につける先輩の横で泣いていた。




「泰明さん」


腕の中には疲れ切った、でも飛び切りの笑顔のあかね。


「誕生日、おめでとう」


「あかね・・・・・・ありがとう・・・」



涙を流す夫の頬に手を伸ばし、あかねは微笑んだ。

産湯につかり、綺麗な白い肌着を纏った娘に対面するまで、後少し。



  


pm5:00



「無事に生まれるよね?」

「当たり前よ詩紋!あのあかねよ?しかも泰明さんの子よ?最強に決まっているじゃない!」

「そうだね。蘭、天真くん」

「当然だな。あいつらも力を貸してくれてるさ」



天真の言葉に、二人は遠いあの日々を思う。




二度と会う事はないけど、

永遠の仲間を
永遠の友を



自分たちと同じ様に
きっと彼らも祈ってくれているだろう。



幸せを・・・






「あかねちゃんと泰明さんの子供なら、『京』に行ったりしそうだね」

「・・・・・・かもしれねぇな」

「本当は行かないのが一番幸せなのよ。・・・辛い運命に巻き込まれないで済むから」


蘭の台詞は、同時に響く足音に掻き消えた。



「可愛らしいお嬢さんが生まれましたよ!
お二人が呼んでいます」



三人を迎えに来たのは、すっかりあかねと仲良しになった新人の助産婦だった。


三人は大きな歓声を上げ、互いに抱き合った。




 

 
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