大地の陽番外編 | ナノ







「待って」

「‥‥‥あかね。まだ何かあるのか?」



気が付けば部屋から出て行こうとするシャツの裾を握り締めていた。







崖を今飛び降りよう。

怖いけれど、泰明さんなら受け止めてくれる。


この想いを余すことなく伝える為に、溶けてしまいたい。




「一緒にお風呂に入ろう、泰明さん」





泰明の眼が驚愕に見開いて、

ゆっくりとほどけてゆくこの瞬間を、

‥‥きっと忘れない。






「‥‥‥分かった」




しゅる、と音を立ててネクタイを外す指が、とてつもなく艶を醸す。



風呂から上がってケーキを食べるまでの間に、

生まれてくれたことを祝う言葉を何度紡ぎ出せるのか。




数えようとして多分無駄だと思ったのは、スプリングを軋ませて身を寄せる泰明が唇を重ねてきたから。




「幸福で鼓動が止まりそう、とはこのような感情なのだろう‥‥‥」




自分のボタンを一つづつ外しながらひたと視線を絡めたままの泰明。



「私も、幸せで死にそう‥‥」

「お前に死なれては私は生きてゆけぬ」

「泰明さんも死んじゃ駄目だよ。私、生きていけないんだから」

「‥‥‥そうだな」



小さく笑いあう。

そして、埋まる顔と顔の、隙間。





彼に全てを捧げられる、この幸福に酔いながら
あかねも彼のボタンに手を掛けた。




「‥‥おめでとう、泰明さん。愛してる」




「あかね‥‥‥今からお前に触れる間、余すことなく伝えよう。

お前を愛している。お前が私の全てだと」














数年後の今日、もっと凄い贈り物をしているんだとは知らずに

私達は誕生日を甘く祝った。


ケーキを食べる頃にはすっかり疲れ果てて、
甘いものが苦手なくせに、泰明さんは全部食べてくれて。






おめでとう。

生まれてくれてありがとう。





やっと、二人が『始まる』ね

‥‥‥泰明さん










甘祝の陽




 

  
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