大地の陽番外編 | ナノ












『お父さん、お母さん‥‥‥ありがとう。

私を産んでくれて。
私を育ててくれて。

私を  愛してくれて‥‥‥』



栗色の髪と眼の少女が笑うから。

今まで出来なかった分、深く抱き締めた。






ありがとうはこっちのセリフだよ


私達の娘になってくれて、ありがとう





愛しているよ
‥‥‥  ちゃん‥‥















「‥‥  ちゃん」



ガバッと飛び起きれば、そこは闇に包まれた室内。



「‥‥‥夢‥‥?」

「目が覚めたのか?」



ガチャと音がすると同時に開いたドアから入り込む光が眩しい。



光を背に立つ泰明の、ジャケットを脱いだだけのネクタイ姿も、眩しくて‥‥‥涙が出た。



「あかね?」

「泰明さ、ん‥‥‥」



あかねの涙に気付いた泰明が足早に歩み、その無駄のない胸に抱きしめた。



「‥‥夢、見たの‥」

「そうか」



切ない夢を見た。


目覚めてすぐにボロボロと記憶から消えて行って、どんな夢か忘れたけれど。



泰明ではない『誰か』に愛しさが溢れる夢。
泰明とも違う種類の愛情だった気がする。

あれは一体なんだったのだろう。



「辛いのか?」

「ううん‥‥泰明さんがぎゅってしてくれたから、もう平気」

「そうか」


よしよし、と頭を滑っていく大きな手の感触。
そう言えば寝乱れて髪が変な方向に向いているのでは、と気付いたのはこの時だった。
お世辞にも寝相がいいとは言えないのは自覚している。


「泰明さん、お風呂に入りたい」


髪が跳ねているから、誕生日を祝うなら完璧な自分でいたいから。

何気なしの要求の後、泰明の手が止まっていることに気付いた。





「‥‥‥あかね、誘っているのか?」





抱きしめられていた腕が離れると、泰明の眼が輝く。

それはいつにも増して妖艶で、大きく鼓動が跳ねた。




ゆっくり近づき重なる顔にあかねの眼が大きく見開かれる。

それからほんの少し離れて見つめると、あかねの頬は真っ赤になっていた。



「や、やや泰明さん!?」

「‥‥」

「あ、あ、あの‥‥‥」



不意打ちに狼狽えるあかねは京にいたあの頃よりも、ずっと近い。

あの時の清浄な気はそのままに、けれど皆の神子ではなく‥‥‥自分の恋人。



誕生日に何が欲しいか。そう聞かれたら答えるものはただ一つなのだが。



「‥‥‥焦る必要などないか」



彼女から離れるつもりなど微塵もないのだから。

まだ顔の赤いあかねがあまりにも可愛くて泰明は微笑みながら彼女の手を取った。



「泰明さん、 「用意をしよう。ゆっくり入って来るがいい」



一瞬向けられた眼差しの甘さに潜められた、炎。




あかねは息を呑む。

彼もまた自分と同じように、内に秘めた情を持て余しているようで。




 

 
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