大地の陽番外編 | ナノ


 


‥‥‥今更、ゆきを手に入れる事は許されない。
彼女は、自分の企みを知ってしまったのだから。
この手を取り共に生きる事はもう、望めない。




自分はもう動き出してしまった。
止まる訳にはいかない。
だからこうして、触れる理由を探すしかないのだ。








「‥‥‥あっ!そうだ!」



突然ゆきが声を上げた。
眼が合うと、照れた様に笑う。



「弁慶さん、お誕生日おめでとうございます!!」



満面の笑顔。

花が綻ぶ様な、いつまでも見ていたいと思わせる、ゆきの表情のひとつ。


弁慶だけに向けられたそれに、釣られて微笑んだ。



「ありがとうございます‥‥‥嬉しいな」



‥‥‥優しいその笑顔にゆきの胸が痛くなった。
彼の本当の笑顔を見るのは、どれほど久しいのだろうか。
不意に涙が零れそうになって、ゆきは下を向いた。




「‥‥‥ゆき」



優しい声音で呼ばれる。
それでも、滲んだ目元なんか見せられなくて。
弁慶の肩に額を埋めて、ゆきは小さく首を振った。



「ゆき。顔を上げて下さい」

「‥‥‥弁慶、さん」



相変わらず優しく、何処か有無を言わせぬ声に、反射的に顔を上げた。


月明りを背に視界一杯に広がる弁慶の眼。



(どうして、弁慶さんも泣きそうなの‥‥‥?)





「弁慶さん‥?」

「‥‥‥眼を閉じて」



‥‥‥もう一度視界は真っ黒になる。

今度は外套ではなく、彼自身の顔が月明りを遮っているのだ。
そう‥‥‥気付いた時には、もう。











唇に触れる熱。




暖かくて
優しいキスが降ってきた。



















「ふふっ。誕生日の贈り物、確かに頂きました」

「へ?‥‥‥‥え?えええっ!?」

「君の事だから、僕の欲しい物を悩みすぎて結局何も用意出来なかったんでしょう?」

「‥‥‥え、なんでそれを?」

「ふふっ。君の事だから分かるんですよ。
ですから、僕が欲しいものを貰いました」

「‥‥‥‥ちょ、え?弁慶さん?」

「‥‥‥君の唇はとても甘いですね」




ゆきの顔も首も、腕までももう、真っ赤。
激しく混乱している。




そんなゆきを見ていると、倒れやしないかと少しだけ心配になった。

いや、密かに笑いを堪えていた、というのが正解だが。



赤面していたゆきだったがやがて、眉を顰めて難しい表情を浮かべ始めた。



一体何を考えているのか。
暫く悶々と悩んでいるゆきの様子を、弁慶はじっと見ていた。






‥‥‥やがて彼女は顔を上げ、真っ直ぐに弁慶を見据える。


「弁慶さん。聞いてもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

「あの‥‥‥望美ちゃんも贈り物を用意してないみたいだけど、同じ事するの?」

「‥‥‥‥‥‥は?」

「だっ、だから!!わ‥‥‥私にしたみたいな事、望美ちゃんにもするのかなって」



要約すれば、ゆきに唇を重ねたように望美ともするのか、と聞いているのだ。



弁慶は堪え切れずに声を上げて笑い出した。
途端にむっ、と睨む視線を感じながらも、まだ笑う。



「―――っ!!もういいです!」

「あ、ああ‥‥‥すみません」




外套から、弁慶の腕から
身を捩って逃げようとするゆき。

再び引き寄せると、強く抱き締めた。




すっかりむくれている彼女が愛しかった。




「‥‥‥そうだな。君が満たしてくれたら、他の人にはしませんよ」

「‥‥‥っ!!」



悪戯っぽく煌めく弁慶の眼差し。

ゆきはまた、顔を赤らめた。







雪の夜と月の光に










弁慶の腕の中。

ここまできても彼の想いに気付かない、どこまでも鈍い少女が再び眼を閉じるまで‥‥‥




あとほんの少し。









 

  
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