大地の陽番外編 | ナノ
(やれやれ‥‥‥今日は強情ですね)
この分だと、どんなに優しい言葉をかけても顔を上げないだろう。
「‥‥‥あ、九郎が空に浮かんでいますよ」
「うそっ!?」
九郎が空を飛ぶ訳ないと知っていても咄嗟に空を見上げた、単純な恋人に小さく笑う。
それから弁慶はゆきの指に摘んでいた菓子を、素早くぱくりと口に運び、入れた。
どさくさ紛れに証拠湮滅とでも呼べばいいのか。
口内に広がる甘い、甘い味。
「あっ‥‥‥あ、あぁーっ!!」
「ああ、ゆきも用意していなかったんですね」
「違う今弁慶さんが食べっ‥‥‥んっ!」
それ以上を口にさせない為に、上向いた唇を塞ぐ。
触れ合う唇が角度を変えて、二人とも弾む荒い息になって。
暫く甘い唇を貪った。
「‥‥‥ほら。ゆき‥‥‥とりっくおあ、とりーと?」
「もうっ‥‥‥ずるいよ、弁慶さんは‥」
「ええ。僕は狡いんですよ。知らなかったんですか?」
君の笑顔が好きだけれど
潤んだ瞳で見上げてくる君も愛しいから。
‥‥‥僕だけに見せてくれる、
甘えを含んだ可愛い君の、涙が。
「愛してます、ゆき」
からかった後にそう本心を言えば、君は決まって柔らかく笑う。
愛しくて、可愛いゆき。
「私も‥‥‥」
「ふふっ、ありがとうございます」
‥‥‥ほら。今年も、悪戯するのは僕でしょう?
弁慶は静かに笑いながら、無防備に目を閉じるゆきの頬に、唇で触れた。
「さぁ、今から悪戯しなければなりませんね」
「‥‥‥やっ、ちょっ‥‥‥ちょっと待ってーっ!!」
なんて叫び声を上げた頃には、時すでに遅し。
満面の笑みを浮かべた弁慶の『悪戯』は開始されていた。
‥‥‥数刻のあと。
ゆきの甘さを堪能した挙げ句満たされ、幸せいっぱいな薬師と。
それから、ぐったり疲れ果てながらも、来年こそはとリベンジを誓う少女が、仲良く寄り添い眠っていた。
きっと、来年も
悪戯するのは‥‥‥ね。
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