大地の陽番外編 | ナノ
「将臣くんは、何もわかっていないようですね」
相変わらず何考えてるのかわからない。
対外的な笑顔で俺を見る。
「君が、彼女と昔馴染みだと言う事は知ってます」
‥‥俺は目の前の男を信用出来ないでいる。
初めて会った時から、既に気に入らなかった。
あれは、京に来てずっと探してた、ゆきと再会した日だったか。
あの時、弁慶はわざわざゆきを迎えにきた。そして、俺に向かって『牽制』してきた。
そう、あれは間違なく殺気。
「‥‥そう簡単には渡せませんよ」
「ああ、そうかよ」
やっぱりな、と俺は思った。
こんな日に宣戦布告ときたもんだ。
と、思ったら‥‥
いきなり弁慶は笑いだした。
「‥‥ふふっ、冗談ですよ」
「‥‥‥‥‥‥はぁ?どっちなんだよ‥‥」
「‥‥大体、もし僕が本気でかかれば、今頃ゆきさんは僕のものになってますよ、将臣くん」
「‥‥‥あのよ弁慶、ゆきを買い被っているんじゃねえか?あいつは思うよりずっと頑固だぜ?」
そうだ、あいつはずっと譲を想っていたじゃないか。
一年以上も会えなくても、どうしても忘れられなかった、と言っていた。
譲が、最初から望美しか見てなくても、ずっと‥‥‥
切なそうに譲を見るあいつを、俺もまた見てるしかなかった。
「そんなあいつだから、守りたいって思う」
「‥‥‥‥‥僕には少し羨ましいですよ、そう言い切れる君が」
「ま、そう言う訳だからいい加減その手を放せ?」
「おや、気付いたんですか」
クスクス笑いながら手を放す弁慶はやっぱりよく分からない。
「ああ、そういえば今日は君の誕生日だそうですね。おめでとう、と言えば良かったんですよね?」
「サンキューな‥‥譲が言ってたのか?」
そういえば譲のヤツ、さっきから張り切ってたな。
何だかんだ言っていい弟だ。
「ゆきさんからですよ」
「ゆき!?」
「ええ。朝から張り切っていましたからね。将臣くんをどうやって誘えばいいか、相談を受けてたんですよ」
誕生日は一緒にいたい、だなんて可愛いですよね。
「なんでそれを早く言わねえんだよ!!」
「人の恋路は邪魔してこそですから」
「アホかぁぁ!!」
こんな腹黒にかまってられない。
俺はゆきを探すべく、駆け出した。
邸の塀沿いに角を曲がる!
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