大地の陽番外編 | ナノ
「ただいま!」
ズリズリ
「ただ今帰りました」
「お帰りなさい弁慶ちゃんゆきちゃん。‥‥‥‥何を連れて帰ってきたの?」
兄(弁慶)と妹(ゆき)が帰宅すると、母(朔)が目敏く妹の懐に目をやる。
「それは何なの‥?見せなさい」
「や‥やだっ」ぎゅ〜っ
「ふふっ‥僕に貸してごらん?」ガシッ
ギュッと抱き締める妹の手から、兄が無理矢理奪い取った。
「ううっ‥」
それは一匹の兎らしきもの(九郎)。
「動物を連れて帰るなんて‥‥‥駄目じゃない!!お父さん!!お父さん!あなたからも何か言って!!」
母がヒステリックに父を呼んだ。
慌てて居間から出てくる父。
「ん〜‥朔、どうしたんだい?」
「弁慶ちゃんとゆきちゃんがこんなもの(九郎)を拾って来たのよ」
「え〜?‥‥でも子供のうちに動物と触れ合うのは大切だし、いいじゃないか」
控え目に、二人(弁慶&ゆき)の援護をする父。
その一言が、母の逆鱗(≠白龍の喉)に触れた。
「あなた!そんな無責任な事を言わないで!!」
「え〜‥ご、ごめん」
「ウチは今余裕がないのよ!ただでさえ‘残業手当かっと’で苦しいのに‘住宅ろーん’も抱えてるのよ!‘ぺっと’を飼うゆとりなんてどこにもないじゃない!」
「い、いやしかし‥‥」
口ごもる父は、もはや母には勝てない。
「兄上は普段からちゃんとして下さい!発明もいまいちだし、もっと真面目に部屋の掃除も‥‥」
段々脱線していく朔。
「ご、ごめんね‥‥お兄ちゃん頑張るからさ〜‥‥」
段々小さくなる景時。
「(さ、朔‥‥お母さんに戻って)」
「(景時、情けないですよ)」
「「はっ!!」」
「‥‥‥‥取り敢えずそれ(九郎)は捨ててきなさい」
母に戻った朔が兄が引っ掴んでいる兎もどき(未だ気絶中の九郎)をビシッと指差す。
「だ‥‥駄目!!こんなに可愛いのにっ!!」
妹は泣きながら兄からソレ(九郎)を奪い取り、ぎゅ〜っと、力強く(「ううっ‥」)抱き締める。
兄の目に剣呑な光が宿った。
「たった今、気が変わりましたよ‥‥ソレ(九郎)はいますぐ捨てましょう」
「やだやだ!!私がちゃんと世話するから!!」
「うちはぺっと禁止だよ」
「なの!!」
「ですよ」
妹はますますぎゅ〜っと抱き締める。
兎っぽいもの(九郎)の顔色は真っ青を超えて土色だ。
「大家さんにバレない様にするから!餌代もお小遣いから出すわ!」
「ですが‥‥」
「でもね‥‥」
「ゆきちゃん‥‥」
「毎日ブラッシングだってするわ。名前だって可愛いのを付けてあげる。エリザベス(九郎)でもパトリシア(九郎)でもいい」
「でも‥‥オレ達は君の事を心配しているんだよ!」
「そうですよ。君が心配なんです。万一怪我でもしたらどうするんですか。こんな珍獣(九郎)ごときで」
「だって‥‥‥だって‥‥‥可哀相じゃない‥‥ぐすっ‥‥」
「‥‥ゆきさん‥‥」
「お父さんお母さんお兄ちゃん。お願い、部屋の隅っこでいいの。私にこの子(九郎)を飼う許可を下さい」
泣きながら必死に頼み込む妹の姿は、命の尊さを思うものの目だった‥‥
「‥‥‥‥‥‥朔、どうしようか?」
「そう、ね‥どうしようかしら、弁慶ちゃん‥‥」
「そうですね‥」
「お兄ちゃん‥‥‥ 」うるうる
兄は妹の涙に弱かった。
「仕方ないですね。‥‥‥‥‥‥‥その代わり、僕が名前を付けますね?」
「ありがとうお兄ちゃん(弁慶)!!」
妹は喜びのあまり兄に抱き付いた。
かくして、妹の愛が家族に通じた。
ぺっと(九郎)と人間との友情物語は今始まったばかりなのだ!!
終.
「と言う訳で君は今日から‘金二号’になりましたから」
「くがねにごう??何がだ?」
「後でブラッシングしてあげるね、金二号!」
「ゆき!?俺の寝てる間に一体何が‥‥」
「ご、ごめんね、オレには止められなかったんだ、金二号‥‥」
「景時まで!?」
「金二号殿、邪魔ですわ」
「さ、朔殿までっ!!金二号とは何なんだ!!?」
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