大地の陽番外編 | ナノ
「あの‥‥‥私じゃダメ、ですか?」
「‥はい?」
先程よりも更に弱い声が、重衡の耳に届く。
そして、ふんわりと重衡の手を包む熱。
告げられた言葉の意味を計り重衡が首を傾げると、ゆきが再び口を開いた。
「ふっ、ふつつかながら私じゃ重衡さんの相談相手になりませんか!?」
勢い込んで話す彼女の、その、真っ直ぐな眼差しに言葉を失う。
「ゆきさんが‥?」
「え‥えっと、確かに私は人生経験も深くないし、重衡さんより年下だし、生意気かもなんだけどでもっ!」
えーと、えーと、と何度も首を捻りながら重衡の手を強く握る。
その熱が伝えてくるのは、目の前の娘の真摯な思い。
「‥‥」
結局口を開く事を諦め、重衡はゆきを見詰めていた。
「‥‥‥でも‥‥重衡さんが辛そうなの見たくない‥」
「ゆきさん‥」
ぎゅ、っと重衡の手を包む小さな手を、ゆき自らの頬に押し当てる。
ざぁざぁと、水音だけが満ちた世界。
雨が、二人以外の全てから閉ざしている。
この場に今、誰もいない。
二人以外は、誰も。
「ゆきさんにそんな顔をされてしまうと、流石に期待してしまいます」
ゆきと重衡が会えばいつも、楽しく満たされた時を過ごしていた。
けれど、真に満たされる事はないまま。
胸に秘めた言葉なら在る。
立場の違い故、決して口にすまいと決めていた言葉。
一方で、いっそ告げてしまいたいと幾度も衝動に駆られそうになった想いなら、一晩かけても尽きぬ程に。
「‥‥き、期待って?」
「ええ。ですから私に都合のよい夢を見てしまいます」
「‥‥えっ!?」
にこやかに笑ってみせればほんのりと染まる柔らかな肌。
確実に上がった、重なる手の熱。
‥‥‥その意味は。
「‥」
今、訊ねるのは些か風流に欠ける。
それでも彼女の口から聞きたい言葉は、この唇が熱を孕んだ後で聞けばいい。
両腕で彼女を抱き締め直し、支えるように後頭部に手を添える。
全てを了承したかのように目を閉じた、薄紅の唇に顔を近づけた。
‥‥‥貴女を、一刻も離したくないのです。
叶うなら、このまま連れて帰りたい。
密やかに抱いてきた想いごと、伝わるように。
重衡さん、お誕生日おめでとうございます!(誕生日関係ない話だけど)
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