大地の陽番外編 | ナノ
──七夕。
天の向こうでは、牽牛が織女と逢瀬を果たしていると言う。
今頃、一年一度、たった一日だけの温もりを抱いて。
募らせてきた想いを伝えているのだろうか。
逢えなかった日々の、切なさを
たった一日で
埋められるのだろうか‥
「はい、願い事を書いてね。バタバタしてるうちに、もう明日だよ」
「うん、もう七夕だよね‥‥‥切ないなぁ」
「どうしたのゆきちゃん、いきなり」
望美が短冊を配っていると、ゆきがはぁ‥と深い溜め息を落としていた。
「あのね、七夕って切ないと思わない?」
「七夕が?どうして?」
「突然だな。何故そう思うんだ」
「だってね、九郎さん。織姫と彦星は年に一度しか逢えないんだよ?その他の日はずっと逢えないんだよ?」
「それは、そうだが‥?」
「でも、元からそんな伝承だろ?今更じゃないのか、元宮」
──七夕の日は笹に飾り付けをして、短冊に願い事を書いて吊るす──
元来、七夕の日に神事はあった。
だが、願い事を書くなんて習慣は京になかった。
そんな七夕行事を持ち込んだ当の本人は、譲に向かって渋い顔をしている。
「はい、弁慶さん」
「ありがとうございます」
短冊を配った望美に礼を述べ、筆を取る。
そうしながら、弁慶はそんなゆきをにこやかに眺めていた。
「そうだけど!‥‥‥私だったら一年に一度しか、すっ‥‥好きな人と逢えないなんて嫌だなぁって思うもん」
「まぁ、それもそうだよね」
「しかも川の向こうに好きな人はいるのが分かってるのに、渡れないから逢えないんだよ?」
二人を隔てる川があるから、逢えない。
一年に一度、橋が架かる七夕の夜までずっと。
「でも、去年までは何とも思わなかったんでしょう?」
「‥‥そんな事ないけど、今年は違うと言うか‥」
ちらり、とゆきが視線を向けた先。
そちらに眼を向けると、九郎でさえも「成る程」と頷いた。
「君が織女なら、きっと寂しさのあまり泣いているでしょうね」
ゆきと眼が合った弁慶が笑顔のまま訊ねる。
「うっ‥‥‥泣きます。だって」
「だって?」
「‥‥‥ずっと、傍にいたいもん‥」
頬を赤らめながらの言葉に、弁慶の笑みは更に深くなった。
「どうでもいいからちゃっちゃと願い事を書いてね、ゆきちゃん」
「わ、わかったよ」
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