大地の陽番外編 | ナノ


 




カコ‥ン。

桶を板縁に置く湿った音が、よく聞こえた。
女の子達は先に風呂を借りている。



「ゆきちゃん、胸おっきいね!!」

「うっ‥‥‥コンプレックスなんだよ、それ」

「こんぷ?何かしら?」

「えっとね、朔。ゆきちゃんは胸が大きい事が悩みなんだって」

「そうなの?殿方は喜ぶのではないかしら?」

「とっとっっ!?殿方ってっ!!?」






 


所変わって岩場の陰。

ここ『熊野別当専用温泉』とは、熊野本宮の奥の一画にある、代々の頭領専用家族風呂の事である。


一般的な温泉より幾分小さいが、十人位ならゆうに入れる広さを誇る。
何より特筆すべきは岩場の合間にある、と言う事だろうか。
それは、つまり‥‥‥





‥‥‥‥‥‥夕闇に迫る、男達の影。
正確に言えば、岩場に隠れている男達。


「おっ!ゆきは巨乳だってよ!」

「へぇ‥‥‥将臣の世界では、巨乳と言うわけ?」

「兄さん、ヒノエ、やめろ。セクハラ発言だぞ」

「そうだぞ、馬鹿!」

「そんな譲だって真っ赤じゃねぇか」

「九郎もそんな事言うなら帰ればいいじゃん」

「っ!!お、俺は兄さん達が脱線しない様に見張って―――!!」

「そ、そうだぞ!俺もお前達が間違いを起こさないようにだな―‥‥」

「「黙れ」」


声を荒げ掛けた





「‥‥‥ヒノエ、やっぱり止めろよ」

「うるさいよ眼鏡。だったら帰れば眼鏡」

「眼鏡じゃなくて譲だろう!?」

「ええ〜?譲くんって眼鏡だったの?」

「景時、つまらないボケ方は止めなさい」

「リ、リズ先生がつまらないとかボケとか言ってるぅ!?アリか?これはアリなのか!?」


リズヴァーンが無表情でダメ出しをした事に、譲があわあわしている。


「ふふっ。リズ先生もそろそろお年頃ですから」

「そうだったのか弁慶!?リズ先生!お年頃だったのですか!!」

「九郎さん、最年長三十四歳をお年頃と言うなら俺達は何だよ?子供か?ひよっこか?大体何でオレしかツッコミがいないんだよ!!」


そこに気付いたのか譲。



君は本当にツッコミしか出来ないからね。

自分の存在意義を知らされた気分とはどんなものだろう。



 

 
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