大地の陽番外編 | ナノ
一方。
(クララ‥‥‥クララ!)
市で見つけて一目惚れ。
穴があくほど見つめて、苦笑した弁慶に買って貰ったクララを追いかけるゆき。
コロコロと転がるウシガ(以下略)クララの動きが不意に止まる。
拾おうと身をかがめて・・・
(立った・・・)
ゆきはそっとウシ(以下略)クララを拾うと緩やかな斜面を駈け登った。
「立った!立ったよ!クララが立ったよ!!」
そう、
懐かしのあの名台詞を口にしながら。
「クララが!見て・・・って、どうしたの?将臣くん?」
連れの元に戻ったゆきは、ぜいぜいと息を吐きながらしゃがみ込んだ将臣を発見した。
「いや・・・何て言うか・・・職業上の悩みだな」
「・・・・・・何か良く分からないけど、大変だね・・・」
一瞬しんみりした二人。
そして顔を上げたゆきは、不思議な光景を目の当たりにする。
「・・・・・・・何してるんだろう」
「あー・・・どうやら、いざよい、とからしいぜ」
「いざ、酔い?」
意味がさっぱり分からず言葉を区切って発音するゆきに、将臣は「そうか!」と叫んだ。
「あいつは酔っているのか!」
と。
よく見ると仄かに赤い顔は、照れているからではなかった。
(泥酔してんのかよ!!)
どうやら重衡は、酔うと誰彼構わず口説く癖があるようだ。
二人は未だに語り合っている。
ゆきも二人をじっと見て、やがて頷く。
重衡は酔っている。
そしてそんな彼を、弁慶は心から楽しんでいる。
少なくとも、ゆきの眼にはそう映った。
(弁慶、さん・・・・・・!)
・・・・・・・ゆきの胸に一抹の不安が過ぎる。
自分でも分からない衝動に突き動かされて、二人の元へと走った。
「弁慶さんを取らないでっ!!」
「十六夜の君‥‥‥?」
「ゆきっ?」
「ゆきさん?」
片膝を立てたままの重衡から弁慶の手を奪い取り、ぎゅっとしがみつく。
ゆきにとって今の弁慶は、クララと出会わせてくれた大切な恩人なのだ。
ここで失う訳にはいかない。
言わば『お父さんを取らないで!』と、継母から取り返す様な心境なのだが、将臣達には知る由がなかった。
「将臣くん、重衡さん。ごめんね・・・・・・またね!」
振り向き様にバイバイ、と片手を振り、仲良く腕組みをして弁慶とゆきは帰っていく。
「弁慶さん、クララが!クララが立ったよ!」
「ふふっ。それは良かったですね」
それはそれは仲睦まじく。
「あぁ‥‥‥十六夜の君‥‥‥‥‥‥あなたはやはり、月が遣わした天女‥‥‥」
「重衡、それ犬だからな」
‥‥‥辺りはすっかり暗くなっていた‥‥‥。
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