大地の陽番外編 | ナノ
「可愛いお嬢さん、十六夜の君」
「ふふっ‥‥‥僕の事ですか?」
「ええ。私はもう一度あなたに会いたかった‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
重衡はやっと会えたと言わんばかりに弁慶を見上げている。
弁慶はそんな彼に深い微笑みを向けている。
そして、
(おいおいおいおい。お前らちゃんと会ったのは初めてだよな?てゆうか重衡、お嬢さんてナニ?確かに弁慶とか言う男はその辺の女性より綺麗だとは思うけど体付きは一応男だぜ?‥‥‥大体弁慶とやらも何を微笑んでいるのか、腹立たないのか。アレか?後できっちり報復しようと思う腹黒な心なのか?・・・・・・それとも俺が還内府と知って困らせようとしてんのか?)
と将臣は怒濤のようなツッコミを心の中で繰り広げている。
ゆきはぼーっとしている。
「次に会えるのはいつの日かと‥‥‥指折り数えておりました、愛しい人」
「ふふっ、君はいけない人ですね」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
苦しそうな表情で切々と胸の内を語る重衡。
晴れた空のような笑顔で返す弁慶。
そして、
(いやいやいやいや。いつ指折り数えていたのか?何日まで数えたのか?‥‥‥大体微笑んでいるが弁慶と言う男もいけない人とはどんないけない事をした人なのか。俺にも分かる様にどうか30文字以内で答えてくれ。‥‥‥てゆうかアレか?俺が還内府だから自分で30文字を考えなきゃいけないのか?)
と凄まじい勢いで考える外野の将臣。
やっぱりゆきはぼーっとしている。
「‥‥‥あなたの頬を染めるのは私だけでいいのです」
「‥‥‥いけない人だ。引き返せなくなりますよ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
重衡は自分で言って自分で頬を染めている。
弁慶はまさに自分が引き返せない様な妖しい眼をしている。
そして、
(まてまてまてまて!既に会話にすらなってねぇと思うのは俺だけか。大体重衡はどこまで本気なんだ?本気で弁慶の頬を染めたいとか思ってるのか?染めるって何だよ、何色だよ桃色か?桃色なのか?‥‥‥んでもって弁慶の引き返せないってなんだ?どこに引き返せないんだ?あれかヘブンとかパラダイス的なモンか?‥‥‥これは還内府としてきっちり白黒つけなきゃなんねぇ問題なのか?)
将臣の思考は、もはや字を打つのが面倒なまでの域に達している。
その時、ぼーっとしているゆきが動いた。
「あ、クララが‥‥‥」
ゆきの手からころん、とウシガエルのクララが転がり落ちた。
球体に近いウシガエルのクララは、コロコロと緩やかな斜面を転がる。
ゆきはウシガエルのクララを追って走るが、ウシガ(以下略)クララは加速するばかり。
「クララ待って!待っ‥‥‥‥立つのよクララ!!」
声を荒げて走るクララ、じゃなくてゆき。
そして、
(こらこらこらこら。立つのよクララって微妙にアルプスの山の中で言ってそうな台詞だよな。てゆうかクララが立つわけないだろうが。クララは立たねぇんだ。アルプスのモミの木とお爺さんとハイジが居なきゃ立てやしねぇ。‥‥‥他にもチーズとか子ヤギのユキちゃんとかヨーゼフ的な小道具も必要だがな。‥‥‥ゆきのウシガ(以下略)クララはもはやどっちが上か下かもわからん楕円形の物体じゃねぇかよ。‥‥‥大体ここは京で和風文化の時代だろうが。横文字の名前を付けるなんてお前は欧米か!と言やいいのか?‥‥‥てゆうかおれはツッコミか?待てよ!そもそもツッコミとは何だ?‥‥‥ここは還内府として責任を持って正しいツッコミをしなけりゃならないのか?)
と将臣のツッコミはツッコミでなくただのボヤキと化していた。
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