大地の陽番外編 | ナノ


 

「着いたよ!!」


着いたところは那智の滝。
流れ落ちる水飛沫と、満天の星と、大きな円い月。


そして


「蛍?」


譲がぼんやりと呟く。


「ヒノエに教えてもらったの。どうしても今日、有川くんに見て貰いたくて。」

「俺に‥‥?」


ゆきを不思議そうに見る譲。
蛍の光に微かに照らされた彼の顔は、泣きそうなほどに愛しかった。


この世界に来る前から、ずっと、好きで。

京に来て、逢えないと絶望したときも。

忘れられなかった、愛しい人。


‥‥たとえ貴方が誰を好きでも。


「有川くん、お誕生日おめでとう」


精一杯の笑顔で精一杯の気持ちを贈ろう。

今日は、
今日だけは、自分の気持ちに素直になる。


「誕生日って・・・俺の?」


きょとんとしている譲を見て、笑いがこみ上げた。


「あはははっ!!相変わらず自分の事になると抜けてるなあ」

「元宮は相変わらず失礼な奴だなぁ」


譲も苦笑しながら後頭部に手をやった。

髪をかき上げる仕草に似て、見てるゆきはドキッとする。


「‥凄く綺麗だな‥‥」

「うん、綺麗だね‥‥」


幻想的な風景に暫く二人、ぼんやり眺めてた。


「‥‥‥ありがとう、ゆき‥‥」


小さな声にゆきは驚いて、隣の譲を見上げる。


―――今、名前で呼んでくれた?―――



眼鏡の奥の照れた眼。

心なしか赤くなった彼を見て、胸がいっぱいになった。


「そろそろ帰ろうか」


差し出された大きな手に


「うん、有か‥‥‥譲、くん‥‥」




ゆっくりと重ねられた小さな手。





「好きだよ、譲くん」





聞こえないようにそっと囁いた。

今は、これで充分。

愛しい人の誕生日の夜を独り占め出来たのだから。
















「そこ滑りやすいから気をつ「ぎゃぁぁっ」
‥‥相変わらずドジなんだな‥‥」




滑って転びかけたゆきの手を引っ張りあげて苦笑いした。





(今は、これで充分だな)


あの頃と変わらないゆきも、
確かにこの手にあるのだから。










★HAPPY BIRTHDAY DEAR YUZURU★


20070720






  
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