大地の陽番外編 | ナノ








「ゆき、場所を移ろう」

「へっ?・・・・・・・・ああ、なるほど」



暫くの間、話の切りだし方に悩んでいたゆきにリズヴァーンは静かに告げる。

顔を上げてすぐに、彼の言わんとする事が分かった。

「そうですね」


(いつの間に・・・・・・ってゆうかバレバレなんですけど!!)


注がれる視線に、ゆきは大きな息を吐いた。


全く気配を隠そうともしないばかりか、明らかに好奇心をむき出しの視線に、恥ずかしくなる。


「先生、どこへ行けば 「ゆき、掴まりなさい」

「えええっ」


抱き寄せて、驚く彼女を外套で包みこむ。


「せ、先生っ?」

鬼の力を使い、瞬く間に姿を消した。












「消えちゃいましたね、リズ先生達」

「あっ、先生ズルイ!!」


本気で悔しそうな望美に景時は苦笑する。


「オレ達が見てる事に気付いてたからね」

「そうなんですか?リズ先生もゆきちゃんも敏感だからなぁ」





「リズ先生とゆきさんがどうかしましたか?」








背後から、柔らかくも底の知れない声が、聞こえた。

振り向かなくても分かる。
背後に立つのが、いつも笑顔の優しげな軍師だと言う事が。




「・・・・・・お帰りなさい弁慶さん。何でもないですよ?」

「ただいま、望美さん。たった今、彼女の名前が聞こえたものですから、何かあったのかと心配になったんですよ」

「そうなんですか?きっと気のせいですよ」




弁慶は、ゆきを守るべく奮闘する望美を笑顔で見、白龍に眼を移した。


「白龍、リズ先生はどこへ出かけたんでしょうか?」

「リズヴァーンなら、ゆきとさっき消えたよ」

「おい、白龍!」


譲が制止するも、時既に遅し―――。

「全く‥‥熱が下がったばかりなのに」

ゆきさんには後でしっかりお灸をすえないといけませんね、と。
無理をするとすぐに熱を出す少女を思い浮かべて、軍師の笑顔は艶やかに花開いた。


(きっと、とんでもなく苦い新薬を試す気なのだろう)


心持ち嬉しそうな友を見て、九郎が思った事は、あながち外れていない。
















リズヴァーンに掴まったゆきは、目の前の風景がぐらっと揺れたのを感じた。


シュンッ!

何度か耳にした記憶がある音がして、咄嗟に目を瞑る。

目を開けると、そこは見た事のある河原。

以前、星の一族の邸へと足を運ばせた時に、リズヴァーンと二人で休憩を取った場所だった。



「・・・・・ここ、嵐山・・・?」
「そうだ」


瞬く間に京邸から嵐山に移動した現実に、分かっていても驚きを隠せない。


「鬼の力って、凄いですね。リズ先生って何でも出来ちゃうんだ」


いいなあ・・・と目を細めるゆきを、複雑な表情でリズヴァーンは見た。


「・・・・・・この力は忌むべきものだ、ゆき」


リズヴァーンの言葉は風に揺らめいて、どこか消え入りそうに聞こえた。


「‥‥‥取り敢えず座りませんか?」


リズヴァーンの視線に気付いたゆきは、彼に声を掛け、自分も草地に腰掛ける。





(先生も、辛い事とかあるんだね)


当然の事を、今更になって気が付く。

いつも迷い無く、皆を導いてくれる彼。
本当は辛い事など山程あるのだろう。
後悔する事もあったのかも知れない。

それでも尚、揺るぎない強さを持ち続ける彼は、とても『似ている』。




「・・・・・・先生」

「どうした?」

「私、陰陽師なんですよ」

「あぁ、知っているが」


周知の事実を口にするゆきに、意味が分からずに黙って続きを促した。


「京に来るまで何も知らなかった、自分の力のこと。
・・・私、最初は景時さんの銃を撃つ真似をしたかっただけで・・・・・・まさか、本当に・・・」


その時の光景を思い出したのか、ゆきは小さく笑った。


「結局私の力は暴走して、庭の木を一杯傷付けちゃって。景時さんと朔に申し訳ないって泣きました」




 


 
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