大地の陽番外編 | ナノ






「ここですっ!!」

「わかった!」



スパン!!

九郎が勢い良く戸を開けた。




「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」










「だから俺は男だって言ってるだろ!」

「あぁ、何度も聞いたよ。‥‥‥本当にお前は、声まで美しいね、姫君

「ヒノエ違うっ!!‥‥‥‥春日先輩!九郎さん!リズ先生も‥‥助けて下さいっ!!」

「ゆっ譲‥‥?」


えぐえぐと泣きべそをかきながら九郎に詰め寄る譲の腰を、後ろからヒノエが抱き締めていた。


「‥‥‥‥へぇ‥‥アンタ等、オレの麗しの眼鏡をどうする気だい?」

「眼鏡かよ!俺の存在は眼鏡だけか!?」

「‥‥望美、眼鏡を助ければいいのだな?」

「いえ、眼鏡よりも、むしろ‥‥‥あっちを」


九郎の問いに望美は部屋の隅を指差す。
「俺は放置!?」と喚く眼鏡を放置して、隅を見れば









桃色の着物を着た景時に化粧を施す朔。



「兄上は元がいいのですからきちんとお手入れしなくちゃ」

「ホント〜?オレ頑張るよ〜」


景時と朔は壊れている。
相当酔っているのか。
というより化粧が既に怨霊の域に達しているぞ、景時

「違うの!そのオカマでもなくて!!ゆきちゃんが悪魔に‥‥っ!!」







望美の声を聞きながら、

目はゆきを探していた。








いた。

ゆきは眠っていた。

隣で介抱しているのは弁慶だ。



‥‥‥介抱?介抱と言うのか?




「‥‥‥何をしている、弁慶?」


眠りこけるゆきを膝に乗せ、妖しい笑みを浮かべた軍師に、九郎は静かに尋ねた。


「静かにして下さい、九郎?やっと寝てくれたんですから」

「なっ‥‥‥まさか、お前が酒を呑ませたのか?」

「呑ませたのはヒノエですよ。用意したのは僕ですが。
まさか皆さんが先に醜態を晒すとは思いませんでしたけど‥‥‥‥」



そこで一旦言葉を途切らせて、周りを見回す。

九郎も釣られて見ると、ちょうどヒノエがリズヴァーンの手刀により地に沈んだ瞬間だった。

がっくりと落ち込む譲の服ははだけている。






「めぐれ、天の声――」


望美は景時を怨霊と勘違いして封印しようとしていた。




(‥‥‥‥‥‥)



色々つっこみそうになったが、その間にゆきを拉致されてはいけないと、弁慶に視線を戻す。


「そういう訳で、僕はゆきさんと――‥‥」

「弁慶っ!!」

「しっ!!起きてしまう‥‥」



「‥‥ん‥‥‥‥あれ?」


九郎の怒声に、ゆきが起きてしまった。

弁慶が舌打ちせんばかりな顔で、こちらを睨んでいる。


「あー‥‥‥あにうえだあー‥‥」


ゆきはにっこりと笑うと、九郎の元へと走ってきた。

 

「あっにっうっえ〜」


ゆきはたたた、と九郎に走り寄ると勢いよく抱き付いた。


「なっ、ゆきっ!?」

「あにう‥‥‥‥‥‥くろーさんのにおい、大好き」

「‥‥‥‥にに匂いっ!?」

「‥‥大好き‥」

「‥‥‥ゆき‥‥」


ゆきは酔っていて、明日には記憶から抜けているだろう。


『好き』の意味もきっと兄としてで、他意はないはず。








それでも


(俺は忘れられそうにないな)



自分が思っていたより、ずっと彼女が大切なようだ。







「‥‥もう寝たのか‥‥子供みたいな奴だな」


九郎の頬に、笑みが浮かぶ。



少し離れた場所にいる弁慶から放たれる殺気を感じながら、眠るゆきの寝顔を見つめていた。







(いつかお前に伴侶が出来るまで、俺が守ってやるからな)








‥‥‥その伴侶に、と九郎が願う日が、ひょっとしたら来るのかも知れない。















―――私の兄は

強くて優しくて、
少し過保護で


いつでも守ってくれるの―――














☆おまけ☆


翌日

首筋に赤い痣を散らした譲と、一部分を覚えていたヒノエが号泣していた。








「あれ、景時さんは?」

「さぁ?昨日怨霊を封印した事しか覚えてないんだよね!」

望美も酔っていたようだ。






弁慶は自室に籠って何やら薬を作っている、らしい‥‥‥


「ふふっ‥‥」

時々漏れる不気味な笑い声に、九郎は怯えるばかりだった。








 


  
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