大地の陽番外編 | ナノ



「乙女の寝顔を覗くなんて最低じゃないですか!」

「だからと言って蹴る事はないだろう!大体あんな豪快な寝相をしてるのが乙女なのか?」

「あ!酷い!!卵焼き食べてやる!」







「‥‥おはようございま〜す‥‥あれ、またやってるの?」

やっと起きたのか入ってきた望美はまだぼうっとしている。

「神子、おはよう」

「おはよう、白龍!今日も美味しそうなご飯だね!」

「うん。譲のご飯は、おいしいよ」

「弁慶さん、止めなくていいんですか、アレ」



譲が二人を指差して弁慶に問う。
同級生が九郎に苛められてるように見えて、真面目な譲は少し心配しているのだ。

そんな彼に、天女のような笑顔で弁慶は言い切った。

「止める体力が勿体ないでしょう」

「‥‥‥‥」








「お、まえっ!行儀がわるいぞ!人の皿に箸を伸ばすな!仮にも婦女子たるもの 「説教ばっかりで最近の九郎さんは面白くない!」 ‥‥‥なっ‥‥」


九郎、硬直。面白くないと面と向かって言われてしまったのだ。



「まあまあ。ゆき、九郎殿はあなたを思って言っているのよ」

「そ、そうだよ〜‥‥九郎はゆきちゃんを妹のように思っているからね〜‥‥」


見兼ねて、梶原兄妹がゆきに話し掛けた。








「こんなお兄さんなんていらない!!」









ごちそうさま!出かけてきます!と勢いよく部屋を出るゆきと、固まる九郎。

相当なショックを受けているのか、全く動かない。

「く、九郎‥‥?妹ってなかなかお兄ちゃんの思う通りにいかないもんだよ」

「そうなのか‥‥」

「そうよ、九郎殿。本当の兄妹だってなかなか解り合えないもの。大丈夫よ」

「あ、ああ‥‥」

解り合えないとあっさり切り捨てられた、朔の兄はこっそり泣いていた。







「さ〜て、オレもゆきを誘って出かけようかな?」

「ヒノエ?泣きたいですか?」

「なんだよそれ」

艶然と微笑む黒い叔父を見て、やっぱりゆきはコイツのお気に入りだ、と確信した。











此処は何処ですか。


「もしかして‥‥この歳になって迷子?」


だとしたら本当に情けない。
朝から九郎に酷い事を言って、慌てて着替えて邸を飛び出した。
ぶらぶら歩きながら考えて、気がつけばもう夕方――

「どうしよっかなぁ」


途方にくれて、道端の石で造られた椅子に座った。

(九郎さんに謝ってないのにな)


大事にしてくれてるのに。一人っ子だった私が欲しかった『お兄さん』そのままなひとなのに。















「何を迷子になっているんだか」

「くっ九郎さんっ!!」

「‥‥‥こんな所で寝ていたら危ないぞ」


いつの間に眠っていたのか。
座ったまま顔を上げると、ゆきを見下ろす橙色の髪の人。


「帰るぞ」


くしゃっと頭を撫でてくれる。


「お腹が空いたから立てない‥‥」

「はあ?‥‥仕方ないな、お前は。あそこに団子屋があるから歩くぞ」

「‥‥へーい」







団子屋に着くと、何故かゆきは元気いっぱいだった。
女とは現金な生き物だな。

「すみません、みたらしとあんこのを二つずつ」

「太るぞ?」

「太るって!‥‥一緒に食べようと思ったのに‥‥」

「‥‥‥(俺の金だが)‥わかったわかった。一緒に食べよう」


諦めたような九郎に、笑うゆき。


「はいよ、あんた達仲睦まじいね。妹思いのいいお兄さんじゃないか!」

「はい、自慢の兄なんです!」



嬉しそうに女将に笑いかけるゆきに、九郎の胸は一杯になった。


ああ、そうか。


(俺だけがお前を、妹のように見ていた訳じゃなかったんだな)


血の繋がりなどなくても、大切なのは互いを想いあう心。

胸が暖かい。




『はい、自慢の兄なんです!』




「帰るぞ」

「はい、九郎さん」

どちらともなく自然に手を繋ぐ。


「そ、その‥‥なんだ」

「なんですか?」

「あ‥‥‥‥‥兄上、と呼んでもいいぞ!」


兄上。
それもいいな。
嬉しいかもしれない。


「?呼び名を変えるの面倒なんで九郎さんでいいです」

「そうか‥‥」


あまりにもしょんぼりして見えたので、ゆきは吹き出した。



その、花の様に笑う笑顔。
ずっと守っていきたい。



この世界での、兄として。







「しょうがないなあ、今だけですよ。‥‥‥兄上」

「‥‥!ゆきっ!」










☆余談☆



「ところで、ゆきちゃんってどんな人の所にお嫁に行くのかな?」

「!!俺より立派な男でなければ駄目だ!!」

「えっ?九郎さんより立派な男って‥‥‥」

「兄上のような男だ!!」

「いっ‥‥嫌だぁぁ!!」




ブラコン健在。











「お兄ちゃんといっしょ」誕生きっかけ話


 

  
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