大地の陽番外編 | ナノ
pm5:40
天真達は分娩室の前で待っていた。
暫くしてドアが開き、中から娘を抱いた泰明とさっきの助産婦が出て来た。
「ゆきだ」
何とも簡潔な紹介だが、その眼は限り無く優しく細められている。
「抱いていい?」
蘭が尋ねると、泰明はふっと笑って(後ろにいた天真は卒倒しかけたが)、蘭がゆきを抱きやすい様に手の位置を変えた。
そうっと抱き取り、蘭と詩紋、天真はゆきの顔を覗きこむ。
すやすや眠る小さな赤児は、泰明によく似ていた。
「どうしよう、すごく可愛い・・・」
「うわあ・・・ちっちゃい手だね。めちゃめちゃ可愛いや・・・」
蘭はゆきを抱き締め、詩紋は小さな手に指を乗せる。途端にぎゅっと握り締めてくるゆきに、二人は感動で一杯になった。
「詩紋、どうしよう。涙が止まらない」
「うん、ボクも。ゆきちゃんが可愛くて仕方ないよ」
ポロポロ泣く二人を見ながら、天真は泰明の肩を叩いた。
「お前もとうとう父親だな!」
「無論。娘が生まれたのだから私は父親だろう」
「頑張れよ、パパ」
「・・・・・・やらんぞ」
「ああ、あの時の言葉な。あれはもういいんだ。
―――あかねは凄い幸せそうだしな」
「そうか」
「ま、ゆきが大人になったら貰うとす 「呪詛と調伏、どちらを好む?」
冗談だろ冗談!!
慌てふためく天真の元に、ゆきを抱いた妹がやってきた。
「抱っこする?お兄ちゃん」
「ああ」
手を伸ばして抱き取ったのは、大切な親友二人の愛の証。
(お前達にも見せたかったな)
時空の先の仲間の代わりに祝福を込めて、
天真はゆきの額へ口接けた。
「天真くん・・・」
「お兄ちゃん・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・後で詩紋と蘭と泰明に締め上げられたのは、言う迄もない。
pm9:00
「泰明さん」
「ああ。今戻ってきた」
一足先に天真達を泰明の家へ送り、自分はあかねの元へ戻って来た。
「今夜は祝賀会だそうだ」
「えー?私のいない間になんて事を・・・・・・」
「お前が退院した時は、詩紋が特製ケーキを作ると張り切っていた」
「ほんと?ふふっ、楽しみ」
笑うあかねは疲れ切っていて、瞼が下がって来ている。
「体は痛むか?」
「だいじょーぶ、と言いたいけど、あちこち痛いかな・・・」
でも、幸せな痛みだよ。
穏やかな笑顔は、慈愛に満ちていた。
「可愛かったなぁ、ゆきちゃん」
「・・・ああ、可愛いと思った・・・・・・・・・不思議なものだ」
あかねは、ふっと笑う夫に眼で「なあに?」と尋ねた。
「・・・・・・人の腹から生まれず、母を持たぬ人形であった私が、こうして父親になったのだから」
「・・・・・・」
「私を愛を教えてくれた事、人として生を与えてくれた事、お前と共に在る喜びを常に感じさせてくれる事、それから・・・・・・」
言葉を途切らせ、一旦あかねに笑いかける。
切ないまでに透明な滴があかねの頬を伝うのを見て、泰明は唇で吸い取った。
「それから、私を父親にしてくれた事・・・・・・ゆきという、最高の誕生日の贈り物を」
「泰明さん」
「感謝している、あかね」
「そんな事、私だって同じだよ・・・」
嗚咽を漏らしながら泣くあかねに、労る様に口接けた。
けれどもそれでは物足りなくて、あかねはもっと、と催促の口接けを返す。
段々深いものとなり、途切れとぎれに「愛してる」と呟く二人。
病室の外では、体温を計りに来たあの新人助産婦が顔を真っ赤にして立っていた。
9月14日
最高の祝福を
貴方にも
あなたにも
誕生日おめでとう
泰明さん、ゆきちゃん
Happy Birthday!!
20070914
前
戻る