騎士と私の往く道 第二章


 主と再会した私は、主に呼ばれるまで自由にして良いと言われたが、私は主の傍を離れたくはなかった。前より一層、主の傍にいる事が出来る様になった私は、主が混沌の神カオスと呼ばれる神の軍勢の筆頭として指揮を取っているという事を知った。
 流石は我が主だと私は誇らしく思った、だけど主はそれを誇らしくは思ってはいないようだ。冑を被っていて素顔を見せてはくれないが、どこか疲れた様な諦めた様な以前のような覇気は全く感じられなかった。

 様々な戦士達が入り乱れて戦っている戦場を、私は主の傍で共に見下ろしていた。この様な戦場など一度も見た事が無かった。不覚にもその空気に呑まれてしまった私に、主は何も言わずある一点を見ていた。主が見ていたのは一人の戦士だった。瑠璃色の鎧兜を纏い、雛黄のマントを翻して剣と盾を振るう戦士。
 その鮮やかな剣技は、様々な騎士を見ていた私でもかなりの力量だという事が分かった。その戦士が此方を見上げた、力強い水浅葱の瞳。その強さに、私はかつての主の瞳を思い出した。
 主は見上げてきた戦士に応える為に戦場に飛び込んだ、私も主に従い、共に飛び込んだ。その戦士を主はよく宿敵だと言って彼の戦士の事をひどく執着していた。実際、彼と刃を交えている主はかつて騎士長として君臨していた頃よりも、とても愉しげに私は感じた。

 私は今、とんでもない事を行おうとしている。私の足元で白い髪の男が倒れている。誰かは知っている、主が執着していた光の戦士と呼ばれている男だ。主が住まうこのカオス神殿に乗り込み、主に戦いを挑んだのだ。そして敗れ、今こうして倒れている。
 主は此処にはいない、いつもならば主が彼に止めを差すのだが、今回は何もせずにその場から立ち去ってしまった。
 残された私は困っていた、倒れている彼を放っておくべきか、それとも……私は倒れている彼を見下ろしながら、彼が常に主に向けて放つ彼の言葉を思い出す。
『お前さえ、救ってみせよう!!』
 不利な状況下でも、ぼろぼろで傷だらけでも、彼は力強い瞳で主を見据えていつも言っていた。救ってくれるのだろうか?この世界という鎖に繋がれ、絶望に捕らわれた主を……
 そして、私は初めて主の意志に背いた行動を取った。倒れている彼を、彼にとって安全な場所に連れて行こうと倒れた彼を背負って。こんな事を仕出かした私を、主はきっと咎めるだろうがそれも覚悟の上だった。
 確か『秩序の聖域』と呼ばれている場所だったか。主は混沌に属している故か足を踏み入れる事は出来ないが、私はどういうわけか易々と入る事が出来る。私は中央の白い台座に向かう。このままその場に下ろしても良かったが、水に塗れて体を冷やしたら助けた意味が無くなってしまう。
 台座に着いた私は漸く彼を下ろした、途中で息を引き取ったのかと口元に顔を近付けると微かに呼吸しているので問題は無い。後は彼の仲間に委ねる為に私は声を上げた。直に彼の仲間が来るだろうから、私はすぐに立ち去る事にした。
 私も彼等にとっては敵同士でもある間柄なのだし、何よりも私が此処にいる事で主に変な勘繰りを入れられても困る。これはあくまでも私の一存であり、主とは関係が全く無い事だから。立ち去る前に私はもう一度だけ彼を見て、すぐに秩序の聖域から立ち去った。
 カオス神殿に戻って来た時、主は私の行動に気付かいていないのか何も言わなかった。もしかしたら気付いているかもしれないが、何も言わないならば私も知らないふりを決め込む事にした。

 その暫く後、また新たな戦いが始まった。だけど、今回の戦いは今までと様子が違った。秩序の者達がクリスタルと呼ばれる物を探し集めているようだ、その事に主は酷く焦りを見せていた。今まで見た事の無い主の状態に、私は不安と微かな期待を寄せていた。
 もしかしたら、主をこの世界から解放出来るのではと。そして、私の期待は現実となった。光の戦士と呼ばれる彼が主と相対して勝ちを治め、クリスタルを手にしたのだ。仲間と共に彼が立ち去っていくのを見届けて、私は玉座の間に向かった。玉座の間に主は座っていた。
「とうとう、揃ってしまったか…」
 主は溜息混じりに呟く。私には分からない、主はクリスタルとは時の鎖を断ち切り神々の存在を危うくさせると言っていたが。そんな私に気付いたのか主は此方を見た、兜で覆われてその表情を見る事は出来ない。最後に主の素顔を見たのはいつだったかと考えていると、空気が変わった様な気がして中空を見上げると同時に地面が揺れた、戦いが終わり世界が終わりを迎えたのとは全く違う。
 いままでとは違う、これは――
「時の鎖が断ち切られた…」
 戸惑う私の横で、ぽつりと主が呟いた。
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