騎士と私の往く道 第四章


 草の匂いに目を開けば其処はいつもの草原だった。どうやら私は眠っていたみたいだ、という事は先程迄の出来事は全て夢だったのだろうか?夢にしてはあまりにも生々しさを伴った夢だった――気がする。
 でも、確かにあれは夢だ、でなければ主とあんな別れを経験するなど夢であっても御免被りたい。だけど、もし夢ならば、あの夢に出てきた彼はどうなってしまったのだろうか?
 夢の中の主が宿敵と呼んでいた彼は。ふと、私は己の髪を見て驚いた。主から頂いた髪飾りが無い、何処かで落としてしまったのだろうか?そういえば、夢の中であの髪飾りを彼に渡してしまったがあれは夢の話、現実ではないのだから。それでも髪飾りを無くしてしまうだなんて、主が知ったらきっと落胆してしまうかもしれない。
 どうすれば良いのだろうと慌てふためく私の耳に主が私を呼ぶ笛の音が聞こえ、顔を上げると主の姿を見つけた。出来れば今は御会いしたくは無かったのだが、呼ばれたのならば私が逆らえる筈もなく、渋々と元に行く事にした。

 主の元に近付くにつれ、主のすぐ後ろに誰かを伴っている事に気付いた。細身――主の体から見ればではあるが――で、白い髪の青年が後ろに立っている。まさかと思って走る速度を上げる、穏やかに主と話している青年が此方に気付いて顔を上げた。薄い水色の瞳、間違い無い夢に出てきた彼だ。夢の中の人物の筈だった彼が何故、此処に?
「こいつに用があったのであろう?」
「ああ、彼に返さねばならない物があってな」
 そう言って彼は私の前に立ち、握っていた右手を開いた。掌の上に乗っていたのは小さな瑠璃色の石が付いた髪飾り。私が主から頂き、今しがた無くしたと思っていた髪飾り。という事は、あれは夢では無かった……?
「それを何処で?」
「混沌の果てで、彼が私に渡してくれたのだ」
 彼は私の髪に触れて一房掴んで、髪飾りを取り着けてくれた。取り着けた彼は満足そうに頷いている。
「やはり、これは君が持つべきだ」
 そう言った彼は私の顔に触れて優しく撫でてくれる。その顔は穏やかな彼の表情は初めて見た、いつもは緊張や強い決意の宿る険しい表情ばかり。そんな彼が穏やかな顔をしているという事は――。
「随分とそいつに気に入られたな」
「妬けるか?」
「ほざけ、我が相棒がその程度でぐらつくか」
 主も彼と穏やかに語り合っている。ああ、主の穏やかな顔を見たのは随分と久しぶりなような気がする。
「随分な自信だな」
「当然だ」
 そう言って私に触れてきた主の瞳の色を見て驚いた、紫黒色と言えば夢の中の主の瞳と同じ色。という事は、やはりあれは夢ではなかったのだ。それでも主は生きている、生きて此処にいてくれている。
「儂と今までを共にした、自慢の愛馬なのだからな」
主、私は今度こそ貴方の傍を離れません。私の命尽きるまで貴方の傍に居続けます、主の歩む道を共に。
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