騎士と私の往く道 第三章


 カオス神殿の屋上で私は空を見上げていた。炎の雨が降り注ぐ空はまるで空が、世界が嘆げいているかの様だ。
 私は、何を期待していたのだろう?クリスタルを秩序の彼等が手に入れれば主は救われる、そう信じていた。しかし、主が魔人と話した事が事実ならば主は……
 私は主の元に戻ろうと見上げていた空から背を向けた。降り注ぐ炎の雨は混沌の神の嘆げいているのかもしれない、同時にそれは主の嘆きなのかもしれない。混沌の神は主でもあるのだから。

 主はカオス神殿の玉座に座したまま動こうとはしなかった。私を供に往く事も、秩序の者達が進軍するのを止めようともせず、ただ玉座に座っているだけだった。
「……お前か」
 主が顔を上げて私を見る。そして徐ろにフルフェイスを外して現れる主の顔、鉄褐色の髪に紫黒色の瞳、記憶の中では濃藍色だったのだが久しぶりに見た主の顔はやはり何処か疲れた様な表情で私に微笑んでいた。
 手招きされたので私が傍に来れば、主は私を見上げて籠手に覆われたままの手で私に触れる。
「すまなかったな、お前も巻き込んでしまって」
 謝罪を述べる主に私は静かに首を振る。何を謝る必要があります、私は貴方の傍にいられれば充分なのですから、むしろこの世界に引き込んだ何者かに礼を言いたいぐらいなのだから。
 私の思っている事を察したのか、私の瞳を見た主は目を閉じる。
「お前に頼みたい事がある」
 そう言って目を開いた主の紫黒色の瞳には決意が宿っていた。
「我が宿敵を此処に連れて来てくれ」

 主の言われた場所に行ってみれば、確かに主の宿敵である光の戦士と呼ばれる男と彼の仲間達が居た。仲間の一人が私の姿を見て皆に呼び掛けると皆は身構える。警戒しているのだろう、だけど私は構わずに彼等の視線を受けながら光の戦士の前まで来た。
 光の戦士は他の者達みたいに身構えもせずに私を見上げている。流石は主が宿敵と認めた戦士、だからこそ私は私なりの敬意を示した。
「――ッ!?」
 誰彼の息を呑む音が聞こえたが私は気にも止めない。主が貴方を待っている。貴方との決着を望んでいる、だから共に来てほしい、光の戦士よ。
「……ガーランドが私を呼んでいるのだな」
 光の戦士が静かに口を開いた、私は然りと頷くと光の戦士は仲間達に向き直った。
「皆、先に行っていてくれ」
 光の戦士の言葉に皆が驚いて制止の声を上げている、中には主の罠だと疑う者がいた。失礼な奴だ、主がそのような愚行をするわけがないのに。
「必ず追い付く。だから皆、行かせてくれ…頼む」
 彼の懇願に皆は戸惑いを見せたが、すぐに頷いてくれた様だ。彼は皆に礼を述べてから私の方に向き直った。
「連れて行ってくれ、ガーランドの待つカオス神殿へ」
 私は力強く頷いた。

 光の戦士を連れ、私は主の待つカオス神殿へ帰って来た。その玉座の間で主は座していた。
「ご苦労だった、下がっておれ」
 主の命に私は従いその場から下がれば。主は玉座から立ち上がり床に突き刺していた愛剣を引き抜いて構え、光の戦士も武器を構える。互いに何も言葉は無い、だけど言葉が無くとも私には分かる、これが最後なのだと。
 そして二人が地面を蹴った。
 私はその場を動かなかった、下がれとは言われたので下がりはしたが立ち去りはしなかった。この闘いの全てを見届ける為に。目の前で主と光の戦士が刃を交えている、主の大剣が唸りを上げれば光の戦士の剣が瞬く。この闘いが終わればどうなるかを私は考えなかった、きっと主も考えてはいないだろう。今の主にとって先の事などもうどうでもいい事、この時がこの瞬間が主の全てなのだ。だから、どのような結果になろうと主には構わないのだ。
 そう、光の戦士の刃に斬られようとも。

 倒れた主の傍に歩み寄れば主は此方に顔を向けて下さった、冑越しでも微笑んでいる様な気がした。
「泣くな…」
 最後の力を振り絞っているのか、主は私の顔に触れて私は自身の状態を知った、私は泣いているのだと。
「いや…泣かせてしまった儂が、言うべきではないな」
 ああ、主の命があと少しで尽きようとしている。ならば私も主の傍で添い遂げたいと思っていた。
「最後の、頼みだ…奴を連れて行ってやってくれ…我が、相棒よ……」
 そう言って主の手は床に落ちた。主の傍で添い遂げたい。だけど主の願いは違う、ならば私は主の頼みを引き受けなければならない。それが主の相棒である私の最後の使命なのだ。私は顔を上げて出て行った光の戦士を追い掛ける、主の体を置いて行くのは気が引けたが、それでも主の願いを叶えなければならなかった。
 入口付近で光の戦士に追い付き、追い掛けてきた私に驚いている彼に私は行こうと促した。全てを、終わらせる為に。

 混沌の果て、主がそう呼んでいた地に辿り着いた。見上げた先に混沌の神がいる、同時に彼の仲間達も。
「此処まで連れて来てくれた事、感謝する」
 彼が私に礼を述べ、上まで続く階段を見上げている。この階段を上れば後戻りは出来ない、だけど彼は後戻りなど考えてもいないだろう。これは主と共に彼を見続けていた私なりの推測だった。
 暫く見上げていた彼が歩き出した、歩く彼の背中を見つめ私は彼を呼び止める声を上げた。彼は立ち止まり振り返った、私は彼の傍に歩みよる。
 そして、私の宝物でもある主から頂いた瑠璃の髪飾りを彼に手渡した。私はこの上には行けない、だからせめてこの髪飾りを共に行かせて欲しい。受け取った彼は私と髪飾りを交互に見て、意を汲んでくれたみたいで腰のベルトに括り着けてくれた。
 そして彼は剣を現し、胸の前に持ってきて瞳を閉じる。
「この戦い、必ずや終わらせる」
 剣を以て誓いを立ててくれた、彼は盾も現して階段を一段、一段と踏み締めながら上がっていく。私は彼の姿が見えなくなるまで見上げていた。
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