育まれる者(2+3+α)


 原っぱの真ん中でフリオニールとオニオンナイトが立っている

「絶対に負けないからね!」

 剣を左右に振って構えながら勝ち気な態度でオニオンナイトが宣誓すれば、フリオニールは剣を横に構えて前に突き出し余裕綽々な笑みを浮かべている。

「全力で来い!」

 フリオニールが剣を鞘に収めて腰を落とす。二人の間に光の戦士が立ち右腕を掲げて――。

「始め!!」

――声と共に腕を振り下ろし、同時に二人は地面を蹴った。
 
 イニシアチブを取ったのはオニオンナイトだ。彼は体が小さい分、体が軽く秩序の陣営の中でも一、二を誇る俊足の持ち主である。オニオンナイトはフリオニールとの距離を持ち前の俊足で一気に縮め、剣を突き出すが当然そんなのは読まなくとも避けれるがフリオニールは敢えて真正面から迎え撃つ事を選び、鞘から剣を抜き放ちオニオンナイトの剣を受け止める。
 受け止められるとオニオンナイトは素早くバックステップで一旦、距離を開ける。鍔迫り合いに持ち込まれれば圧倒的に不利なのは目に見えている。接戦に持ち込まず持ち前のスピードを生かしたヒットアンドアウェイで挑めば問題ないとオニオンナイトは戦術を組み立てる。

「来ないのか?なら、こちらから行くぞ!」

 色々と考えるオニオンナイトにそう宣言してフリオニールが膝を曲げて地面を蹴り開いた距離を縮める、オニオンナイトはフリオニールの瞬発力に驚く。
 彼はどちらかと言えば鈍足の部類だと思ったが、よくよく考えれば彼はいつも八種の武器を背負っている。その重さが無くなればどうなるか、まだ予測を立てていなかった。
 振り下ろす剣をオニオンナイトは横に跳んで躱し、突きを繰り出せばフリオニールは剣を受け流す様に受け止める。
 普通なら対処出来ずに避ける筈なのに、あくまでも受け止める事を貫くつもりらしい。それがなんとなく余裕があるみたいで少し腹が立った。

 少し離れた所で光の戦士は腕を組み、二人の手合わせを見ていた。

「白熱してますね」

 声を掛けられ横目で見ると、隣にセシルが立っている。

「ああ、武器を全て下ろしたフリオニールのスピードがあそこまでとは思ってなかったな」

 オニオンナイトのスピードについて行けるフリオニールに光の戦士は素直に驚き、隣に立つセシルは自分事の様に得意気な笑みを浮かべる。フリオニールが横に切り払いから返し刄で逆袈裟で切り上げから剣を引き寄せて突く、流れる様な連撃にオニオンナイトは戸惑う様なきごちなさで避けているのにセシルは眉を寄せる。

「動きがぎこちないね、いつもの彼らしくない」
「フリオニールの早さに虚を衝かれたのだろう、彼は理路を以て行動するきらいがある。それ故に不意や変則的な行動には弱い――」

 光の戦士がオニオンナイトを冷静に分析する、その口の端を珍しく吊り上げながら。

「――が、順応は早い」

(突きの鋭さが上がってきたな…)
 オニオンナイトの剣に自分の剣を添わし、支点をずらして突きを捌きながらフリオニールは思う。伊達に一、二を争う俊足の持ち主ではない、その俊足から繰り出される手数の多さがオニオンナイトの武器だ。
 フリオニールはオニオンナイトの剣を払い踏み出す、それに合わせてオニオンナイトも前に出てフリオニールの懐に入り込もうとするのを横にに跳べば、すぐにそちらに目を向けて切り上げるのを受け止める。
 手合わせして知ったが下から上の攻撃というのは対処し難い、慣れの問題と言えばそうなのだが基本的に似た身長と相手が多い。だがオニオンナイトと自分の身長差は相当である、それは向こうも同じ差であるがこちらからの攻撃は上から下の攻撃、体重も乗っているのだがオニオンナイトは剣を斜めに構えて受け止めるというより受け流している。
 そして無理な追撃はしないで慎重に相手の行動を伺うかと思いきや、急に大胆に踏み込んで懐に入ろうとする。
 その微妙なタイミングを見極めて行えるオニオンナイトにフリオニールは素直に感心する。つい彼の魔法の方に目が行きがちだが彼の洞察力や観察眼も侮り難いものがある、この戦いに関する駆引きはその慧眼から培われているのだから。

「ハァッ!」

 オニオンナイトが力強く踏み込んで地面を蹴って跳び上がり、気合いの声と共に剣を両手で持って振り下ろす。フリオニールは左手も刀身に添えて膝を軽く曲げて受け止め、そのまま押し返し着地するオニオンナイトに地面を蹴り接近する。
 態勢を立て直す隙など与えない、フリオニールは剣を振り下ろす。

 振り下ろされた剣を受け止める際に少し斜めに構えて力を流す、フリオニールの馬鹿力を律儀に受け止められる腕力は悔しいけど持っていない。そんな自分の為に光の戦士が授けてくれた防御法である。
 こういう時はいつもならば魔法を混ぜて攻めるが、今は純粋な鍛練なのだから魔法は使わない。左足に力を込めて剣を腰元に引き寄せればフリオニールがそれに反応して左足を動かしてくれた、オニオンナイトはにやりと笑って地面を蹴って左側に回り込む。
右側回りたければ左足に力を込めるそしてそれに対応しようとするなら相対者と同じ方向に行動を起こすのが普通、だけどオニオンナイトのそれはフェイントだった。
 そのフリオニールはまんまと引っ掛かり左側はがら空きになった。

「これで詰めだ!」

 オニオンナイトは腰元に引き寄せた剣を振り上げ――。
――金属同士のぶつかる音を響かせた。
「惜しかったな」
 オニオンナイトは目を見開いてフリオニールを見上げている、そんな彼にフリオニールは見下ろしながら小さく笑う。オニオンナイトの剣を逆手に構えたフリオニールの剣が受け止めていたのだ。
 さっきまで右手に握っていた筈の剣がいつの間にか左手に移っていた、フェイントは確かに引っ掛かっていたのに。

「そこまで!」

 光の戦士が声を上げる。終了を告げる声にオニオンナイトは剣を引き、光に変えて手から消した。フリオニールも逆手で持っていた剣をそのまま鞘に収めた。

 フリオニールは頭に巻いているバンダナを外して汗を拭おうとすると、目の前にタオルを差し出され目を向けるとセシルが微笑んでいた。

「お疲れ様、良い勝負を見せて貰ったよ」
「ありがとう」

 フリオニールは差し出されたタオル受け取り汗を拭う。

「そういえば、彼と手合わせって初めてじゃない?」
「そうだな。大抵の相手はクラウドかライトで、俺達は遠目で見ていただけだったな」

 そう言ってフリオニールはいつもの光景を思い出す。鍛練や手合わせ類になればオニオンナイトとよく一緒にいるのは光の戦士とクラウドだった。
 子供扱いするわけでは無いけどやはり無意識に何処かで子供扱いしてしまうのだろう、それでつい声を掛けるのを躊躇ってしまっていた。
 フリオニールはオニオンナイトを見やる、座っているオニオンナイトに光の戦士が隣に座り何か話している。彼は誰よりもオニオンナイトの事を気に掛けていた、だからといって甘やかしているわけではない。
 それでも、彼に向けているものは純粋な愛情なのかもしれない――例えその言葉を彼が知らなくとも。

「何を熱心に見ているんだい?」

 声を掛けられてフリオニールは隣を見ると、自分の腕にセシルが綺麗に筋肉の付いた腕を絡めてこちらを見上げていた。
 悪戯っぽく笑う江戸紫の瞳にフリオニールは笑みを浮かべる。

「いや、オニオンは強いなと思って」

 そう言ってフリオニールは視線をオニオンナイトに戻す、隣のセシルもオニオンナイトを見やる。
 幼いながらも、もう誰かを守る事の意味を知っている赤き騎士。光を受けて花が咲くが如く、原石が磨かれ輝きを得るが如く、彼は強くなるだろうとセシルは思い願う。どうか自分の様に迷う事無く真っ直ぐ光を見つめて歩いてほしいと――。

 オニオンナイトは兜を外し、すとんと原っぱに足を投げ出し座る。

「あーあ、あのフェイントならいけると思ったのに」

 ぶすっと膨れっ面を見せるオニオンナイトの隣に光の戦士も座る。

「確かにそうだったかもしれないが、使う場面を間違ってしまっていたな。
出方を伺う時ならば冷静に見ていればすぐに見抜かれる、君の素早い動きの中でこそ使うべきだ」

 光の戦士の言葉にオニオンナイトは真剣な表情で耳を傾ける。光の戦士の指摘は的確で厳しいがそれは光の戦士が自分を一人の戦士として見てくれているという事だから。

「でも、次は絶対に勝つよ」

 オニオンナイトの強気な発言に硬い表情の多い顔が和らいでいる。

「随分と強気だな」
「約束したから、守るってティナに約束したから。だから強くならなくちゃいけないんだ」

 そう言ったオニオンナイトの顔は真剣な表情をしている、光の戦士はこの小さくとも強い光を宿す戦士に薄く笑みを浮かべていた。

「それは心強いな、ならばこれからもティナの事を宜しく頼もうか」
「はい!」

 光の戦士の言葉にオニオンナイトは力強くそれでも嬉しそうに笑って頷く、そんなオニオンナイトに光の戦士は期待と労いを込めて頭を撫でた。
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