同類相哀れむ…(a’s)


 少し用があるから此処で待て、我が主はそう言ってこの草原に私を置いて何処かへ行ってしまった。共に付いて行きたかったけど、主の命令には逆らえない。私はこの草原で主の帰りを待つ事にした。
 心地好い風が吹いて私の鬣を揺らしていく、誘っているかの様な風に私は地面を蹴って駆け出す。主を乗せない軽さに寂しさを感じながらも私は駆ける、それに合わせて風も共に流れていく感覚はやはり心地好いものだ。

 暫く走っていると甲高い声が聞こえて立ち止まって耳を済ませる、また聞こえてきた。魔物だろうか?そんな筈は無い、主が魔物のいる場所に私を置いて行ったりはしない。だとしたら何だろうと思いながら私はその声の聞こえた方へ行ってみる事にした。
 近付く程に聞こえてくる甲高い声は鳥に似ているけど、鳥はこんなに大きい声で鳴くのだろうか?鳥は苦手な生き物だ、何もないと思って走っていると急に地面から飛び立ったりするから。いくら大抵の音には驚かない私でも、飛び立つ鳥には流石に驚いてしまう。私だけの時ならともかく、主を乗せている時には驚きのあまり、背に乗っていた主を振り落としてしまいそうになってしまった事が……
 まぁ、その話は置いておこう。
 辿り着けば、声の主の鳥がいた。黄色い鳥、その鳥には見覚えがある、確か旅人とよく一緒にいた鳥だ。鳥はポロポロと涙を流して泣いている。私は周りを見渡すが、いつも一緒にいる筈の旅人は何処にもいない。はぐれたのだろうか?だから泣いているのか。この鳥の気持ちは私も痛い程分かる。主が傍にいないというのはどれだけ不安で、もう二度と会えないのではという有りもしない恐怖を抱いてしまうのか……
 鳥が私に気付いて此方を見上げて跳び上がった、私はこの鳥――名前はボコと言ったか――をあっさりと捕まえて背中に乗せてあげた。ボコは驚いてぱちぱちと瞬きをしている。
 光栄に思え、主以外の者を乗せないこの背中に乗せてやるのだから。私はこのボコを旅人の所に連れて行ってやる事にした。此処で待っていろ、というのが主の命令であり、背く事に罪悪感は否めなかったが、同類と呼べば良いのだろうかそんな彼に自分と同じ思いはさせたくはなかった。

 旅人が何処にいるのかは正直見当がつかなかったが、背中のボコが反応するのを頼りに各世界を飛び越えて行けばその先に旅人はいた。旅人の仲間が私に気付いて身構えるが、旅人は私の背中のボコに気付いたようで身構える事なくボコの名前を叫んで私に駆け寄って来た。
 無防備にも程があるぞ、罠だったらどうするつもりなのだ?まぁ、我が主はそんなせせこましい罠をしないが。背中のボコも駆け寄る旅人に飛んで旅人に飛び付く。やはり鳥だから飛べるのだな、と感心しつつも私は安堵の気持ちに満たされる。旅人は嬉しそうにボコをぎゅっと抱き締めている、ボコも小さな翼を精一杯広げて旅人にしがみついている。それを見届けて私は背を向けた。
 さぁ、急いで戻らなければ、ひょっとしたら主が待っているかもしれないのだから。

 戻って来れば懐かしい音が聞こえてきた、主が指笛で私を呼んでいる。何れ程、主を待たせてしまったのだろう、私は地面を蹴って主の元に駆ける。主と別れた場所に主が立っている、私は脚を早めて主の傍に駆け寄った。
「随分と遠くまで駆けておったのだな」
 駆け寄った私に主はそう言って優しく撫でてくれた。撫でられながら私はあのボコの事を考えた。彼は何れ程、旅人と離れていたのだろう?ほんの少し、こうやって離れただけでもとても不安に思うのだからきっと――。
「シュバルツケーニヒ?」
 私は主に摺り寄った、主はそんな私に何も言わず首に腕を回して落ち着かせる様に首を叩いてくれる。今頃、きっとボコも思う存分にあの旅人の傍にいるのだろう。私達にとって大切な者の傍が一番の至福の場所なのだから。
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