猛き者、魔の人をも魅せる(1’←4’)


 感じたイミテーション達の気配に訪れて見れば、従順な筈のイミテーションが襲い掛かってきた。

「……くっ!」

 ゴルベーザは咄嗟に魔法防壁を展開する。防壁に阻まれたイミテーション達は襲い掛かってきた勢いのまま、後方に弾き飛ばされた。

「イミテーション達が何故…?」

 ゴルベーザは思わず疑問を声に出す、弾き飛ばされたイミテーション達はすぐに起き上がりゴルベーザを狙ってくる。基本、イミテーションは混沌の陣営には攻撃をしてこない、と、言っていたのは誰だったか。そのイミテーション達が自分を狙ってきているという事は、『企み』に気付かれたか?ありえない、と、考えを否定し、ゴルベーザは浮遊ビットをを起動させ、イミテーション達の動きを牽制する。
 仮に気付かれたとしても、一人で実行するには説明が出来ない事も実行している。いざとなればそれを翳して逃げれば良い、これを切り抜けた後に。

 ゴルベーザは重力システムを起動と同時に迎撃システムの起動の準備をする。時折、弟が溜息混じりにイミテーション達についてぼやいてはいたが、ぼやきたくなる理由をこんな形で理解出来た事にゴルベーザは複雑な気持ちだった。それにしてもイミテーション達のメンバーがよりによって相性の悪い相手なのに、いよいよ己を襲う為に用意されたと考える方が正解な気がしてきた。兵士の斬撃を弾いて上に逃げれば頭上から盗賊の刃が降り注いでくる。ゴルベーザは魔法球を盗賊の目の前で爆発させて攻撃を弾き、兵士に目を向けた目の端に光を捉えて再度上を見れば弟の――騎士のイミテーションが頭上から急襲してきた。盗賊を壁に迫ってきたのか、ゴルベーザは腕を交差させて騎士の攻撃を甘んじて受ける様に刃を受けて地面に叩き付けられた。

「がはっ!」

 背骨が軋み、息が詰まる。四肢に力が入らないのを、魔力を籠める事で補強して起き上がれば、イミテーション達が此方を見ている。攻撃のタイミングでも伺っているのか、若しくは死にかけの獲物を前に舌舐めずりしているのか。ゴルベーザは両腕を前に突きだし、発動の速い魔法を構築する。
 命を投げ出す事には恐れも躊躇いも無い、ただその相手がこの様な虚ろな奴等になどくれてやるつもりが無いだけ。
 兵士が半歩足を引いた、突き出した腕にエネルギーが満ちてくる。イミテーション達の攻撃が速いか魔法の発動が速いか。だが、頭上からの土を擦る音にゴルベーザは上を見上げれば少年のイミテーションが、囮だったのだ。それに気付いてもその隙に構えたイミテーション達の攻撃を止める術はゴルベーザには無かった。
 此処までなのか、と、諦めかけたその時、紅蓮の矢が少年のイミテーションと共にゴルベーザの目の前に降り注ぎ目の前のイミテーション達は後ろに跳び退く。

「これは、まさか――!?」

 ゴルベーザが驚きに声を上げる目の前に黒馬が降りてきた、その背に猛者を乗せて。

「ガーランド?!」
「間に合ったようだな」

 ガーランドがちらりとゴルベーザの方を見遣り、すぐにイミテーション達に目を向ける。後ろに退いたイミテーション達が武器を構えれば、黒馬が威嚇する様に軽く前肢を浮かせて低く嘶く。ガーランドは手綱を細かく動かして黒馬をいなしながら大剣を構える。

「すぐに片付ける」

 ゴルベーザにガーランドは言い置き、気合いの声と共に黒馬の腹を蹴って強く手綱を引いた。

 宣言通り、イミテーション達を片付けたガーランドから手当てを受けながら、先程のイミテーション達について説明を受けていた。

「イミテーションの、野良化?」

 ゴルベーザが鸚鵡返しに訪ねれば、怪我した腕にポーションを掛けていたガーランドが頷く。

「確率的に極稀なのだが、本来の目的を忘れ、陣営に関係なく襲うようになってしまうようだ」
「それを貴方が破壊し回っていた…と?」

 ガーランドが頷けば、ゴルベーザはこっそり安堵する。誰かの差し金かと思っていたが、偶然の襲撃だという事はまだ誰にも気が付かれていない証拠だ。

「いつもは一、二体程度だったが、今回の様に徒党を組む様になっておったとは……神殿に戻って対策を練らねばならぬな。ゴルベーザ、共に来るか?」
「え…?」

 ガーランドの意外な申し出にゴルベーザは目を丸く――冑で全く分からないが――する。

「ポーションである程度は治療はしたが、完全となるとリッチに頼むしかない。が、生憎と今は召喚石を持ってきておらぬからな」

 そう言いながら黒馬のハミを持って連れてきたガーランドにゴルベーザは緩く首を振った。

「心遣いは有難く受け取るが、もう少し此処にいたい」
「……そうか、ならば致し方無い」

 ゴルベーザの言葉にガーランドはあっさりと引き下がり、鐙に足を掛けてその背に跨がった。

「傷が痛むのならば神殿に来い、リッチには話しておこう」

 手綱を引いて馬首を巡らせ、立ち去ろうとするガーランドに、ゴルベーザはふと沸いた疑問を投げ掛けた。

「ガーランド、そなたは何故…私を助けた?」

 歩かせていた黒馬を止めてガーランドが振り返れば、顔を上げたゴルベーザの冑の単眼と目が合った。

「……決まっていよう」

 僅かな沈黙の後、ガーランドが口を開く。

「おぬしは混沌の同胞、ならば同胞を守るのは筆頭である儂の勤めだ」
「――ッ!?」
「……他の奴等には言うなよ、おぬしにしか話さぬ事だからな」

 そう言ってガーランドは黒馬の腹を蹴り、今度こそ立ち去った。 残されたゴルベーザは、徐に冑を外して口に手を当てる。この場に人がいないのが幸いだ、と、思う。

「……なんて人だ」

 今の自分の顔は見なくても分かる。

「あれは…反則だ……!」

 耳も熱くなるほどきっと顔も赤くなっているのだろう、と、ゴルベーザは思いながら呻いた。
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