その力、誰が為に(2×4)


 周りの空気が張り詰める。この緊張感を心地好く感じるのを否めないフリオニールは腰を落とし、得物の剣の鞘に左手を添えて相対者を見据える。相手は細身の槍の様な独特なラインの武器を腰だめに構え、全身を漆黒の鎧に身を包む暗黒騎士セシル。長く続きはしない睨み合いにけりをつけ先手を取ったのはセシルだった。

 地面を蹴り、腰だめに構えた武器をフリオニールに向けて突く。フリオニールは軽く体をひねり横に避けるが、セシルはその体勢のまま右足を軸に払いフリオニールはバックステップで躱し、反動を利用し雷を帯びた短剣を払い切った胴に投げつけセシルを引き寄せ拳を叩き込む。
 叩き込まれる直前にセシルは左の鉄甲で受け止め踏み留まり、闇の気を込めた武器を踏み留まった事に驚くフリオニールに突き刺し吹き飛ばす。吹き飛ばされたフリオニールは対応が遅れ、吹き飛ばされた先の岩に激突する。
 激突したフリオニールは膝をついてその際に口の端を切って流れた血を手の甲で乱暴に拭い顔を上げるがそこにセシルはいなかった。見失ってしまったと周囲を慌てた様に見渡すが、反射的に地面に手を着いて転がるようにその場を離れた。
 直後に白い光が通り過ぎフリオニールは仰ぎ見る。頭上にいるのは白銀の鎧に身を包む聖騎士、セシルは武器を構えて猛禽が獲物に襲い掛かる様に急襲する。フリオニールは斧を出して攻撃を受け止めるが、掬い上げる様な攻撃に若干体が浮いたのをセシルは見逃さなかった。
 左手も添え、気合いの声と共に力任せにフリオニールを上空に吹き飛ばす。

 吹き飛ばされたフリオニールは腰にマウントしてあるロッドを出して素早く詠唱する。空中戦になれば対空技の少ない自分では不利だ、迫るセシルにフリオニールは数少ない対空技である魔法で対応するがあっさりと躱され、矛先は変わらない――。
 ――が、余裕は出来た。フリオニールはロッドをしまい、鞘から剣を引き抜き仰け反る様にセシルの攻撃を受け止める。そして、予め折っていた膝を伸ばす様にセシルの腹部に蹴りを叩き込み、その反動で地面に落ちるスピード上げる。
 落ちる中、フリオニールは歯で剣をくわえ、肩から弓を外して矢を番え引き絞り放ち、猫科の様に身を捻って着地した。
 流石はセシルだ、とフリオニールは心中で称賛し、猛獣の如き力と猛禽の如き鋭さを併せ持つ彼は鷲獅子の様だと思った。そう、漆黒の毛皮と白銀の翼を持つ鷲獅子だと。 流石はフリオニールだとセシルは思った。
 空中戦に持ち込めばこちらが有利になると思ったが、彼は直ぐに地面に戻る術を見出だし、弓で牽制までやってのけた。放たれた矢を咄嗟に躱したが矢の方が早く、左腕に擦ってしまい血が流れている。地面に降り立てばフリオニールの本領発揮だ、近付けば直ぐに地面に引き摺り落とされるだろう。
 大地を疾風の如く駆ける猛獣の様だとセシルは思う。力強くかつしなやかな鋼色の毛皮の猛獣、それが彼には相応しいと思いながら武器を構え、フリオニールもこちらが来る事に気付いたようで弓を肩に通し剣を構えている。セシルは身を翻して空中を蹴って落下に速度をつけ、フリオニールも地面を蹴り駆け出す。互いの得物を振り上げ交錯する瞬間、二人の間に影が飛び込んで来た。
 同時に響く金属同士がぶつかる音が増えた事に二人は目を見開いた。飛び込んで来た影は身の丈程の巨大で肉厚な剣を振り回す細身の兵士。

「――ッ!」
「クラウド?!」

 クラウドは剣と腕でフリオニールとセシルを受け止めたまま二人に目配せ、静かな口調で言った。

「そこまでだ、二人とも」

 クラウドの言葉に二人は互いに武器を下ろし、これ以上の戦闘はしないを示す様にそれぞれの武器をしまい両手を上げる。クラウドも武器を光に変えて消し、二人に対して小さく嘆息を漏らす。

「手合わせするのは構わないが、もう少し抑えてやれ」

 そう言って後ろに顎をしゃくるので、二人はそちらに目を向けた。

「ティーダがビビってたぞ」
「「あ」」

 少し離れた所ではらはらした表情でティーダがこちらを見ていた。

「フリオニール」

 特に何もするわけではなく、その場で佇んでいたフリオニールは振り返るとすまなさそうな顔をしたセシルが立っていた。

「セシル?どうしたんだ」
「君に謝りたくて、さっきはすまない…」

 セシルの謝罪の言葉に、フリオニールは緩く頭を振った。

「謝るのは俺の方だ。あの時力一杯セシルに蹴り入れたから、大丈夫か?」
「ああ、あれ?結構きつかったよ、切り結んでいる時に蹴りを入れられるなんて初めてだし」

 くすくす笑うセシルにフリオニールはばつが悪く頭を掻く、ひとしきり笑ったセシルは一息吐いてフリオニールを見上げてきた。星の光できらきらと煌めく柔らかなホワイトシルバーの髪に、紫かと思った瞳だが実際は青み掛かっているのだと気付く。フリオニールはちらりとセシルの左腕を見た、白魔法で治してあるが自分がセシルを傷付けてしまったという事実にフリオニールは胸が痛んだ。
 抗えなかった、沸き上がる『衝動』の儘にセシルに戦闘を仕掛けて傷付けてしまった。この『衝動』は今に始まった事ではないが、仲間に対して戦闘を仕掛けたのは初めてでそれがフリオニールには衝撃的だった。
 同時に恐怖する。この『衝動』ままに仲間を殺してしまうのではないかと。そんな考えに至り、セシルから視線を外すが端で銀の光が揺れたのを捉える。それがセシルの髪だと認識した時にはセシルが自分を抱き締めていた。

 フリオニールの背に腕を回して至近距離でフリオニールを見上げる。星の光で鈍く光る硬そうなシルバーグレイの髪に今は戸惑いに揺れる金の瞳は近くで見るとオレンジなのだとセシルは知る、同時に口の端に傷がある事も。

「…傷、大丈夫?」
「傷?ああ、これぐらいなら放っておけば治――」

 心配するセシルに誤魔化す様に笑って大した事は無いと言おうとしたが出来なかった、セシルに傷口をぺろりと舐められたから。

「せ、せせせせ、セシルぅ?!」
「傷口を舐めてあげただけだよ。本当、フリオニールはこういう不意打ちに弱いね」

 舐められて耳まで真赤になるフリオニールにセシルは悪戯っぽく笑い、フリオニールの胸に頬を寄せた。

「セシ…」
「僕なら大丈夫だよ、フリオニール」

 回した腕に力を込めて言うとフリオニールの体が強張ったのが分かる、やはり思った通りあの『衝動』について気に病んでいたのかとセシルは柳眉を寄せる。
 『コスモスの戦士達全てに起こりうる事だ』と以前、兄は言っていた。その時は自分もその『衝動』に突き動かされるままに、あろう事か兄に攻撃をしてしまったのだ。落ち着いた後に兄からその『衝動』について教えて貰い、今はある程度は抑える事は出来るようにはなっている。
 皮肉にも暗黒騎士の力が『衝動』を抑える手助けになっている。それでも、それが仲間達の、フリオニールを守る事になるのなら――。

「これでも僕は聖騎士だよ?結構、頑丈だし、どうしようもなくなったら僕に言って?何度でも相手になるよ」

 セシルはフリオニールを見上げて小さく首を傾げて言うと、フリオニールはそろそろとセシルの頬に指先を伸ばし触れて手を添えた。ふわりと微笑むセシルにフリオニールは顔を寄せる、セシルは目を閉じてぎこちなく重ねてきたフリオニールの唇を受け止めた。
  ――喜んで、使おう。
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