# 暗き道をただ歩む(1’×1)


 暗闇の道、月明かりだけが照らす下を暗闇に匹敵する漆黒の馬が歩いてる。その漆黒の背には月明かりで鈍く光る鎧を身に包むガーランドが、片手に手綱をもう片手に紫苑色の布に包まれた何かを抱いて揺られていた。
 揺られながらガーランドは目線を下に向け、包まれたモノを見下ろす。布に包まれていたのは瞼を閉じている青年、宿敵である光の戦士と呼ばれている者であったが、その名に相応しき凄烈さも、清廉さもなりを潜めていた。その閉ざされた瞼を今にも開き、澄んだ水浅葱の瞳をガーランドに向けてくるかの様な穏やかな寝顔。
 だけどその瞼はいくら耳元で目覚めを促す様に囁こうと、開きはしない事をガーランドは知っていた。
 分かっているという方が正しいだろうか。けれども、ガーランドは彼が瞼を開かない事に、悲しいという感情も何も心に湧かなかった。ただ、此度の闘いに己が勝ちて生き、彼が負けて死んだ。
 その事実だけだ。
 もうすぐ此度の闘争も終わるだろう。闘争の中で倒れた両陣営の戦士達もまた再び蘇るだろう、チェス盤の駒を並べ直すように。
 次の闘争が始める為に。それはまるで、死というのは次の闘争迄の眠りのようではないか、と、ガーランドは心中で思うが嘆きはしない。元よりその感情等、とうに捨て置いた。
 ガーランドは腕の中で死という名の眠りに着いている彼を見る。月明かりに照らされて普段から白い肌が青白く見えた。彼も目覚めれば、また光の戦士として戦うのだろう。
 敬愛する女神の為に、親愛なる仲間達の為に、そして宿敵である己を救う為に己が身と魂を削って。ガーランドは彼の体を胸に抱き寄せて腕に力を籠める。

「眠るが良い、我が最愛なる宿敵よ」

 次なる闘争迄、ガーランドは届かぬ囁きを耳打ちして空を降り仰いぐ。二人を乗せ、黒馬は暗闇の道をただ歩いていた。
- 6 -


[*前] | [次#]
ページ:




top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -