敗軍の将、ただ華々しく散るのみ(1’+α)


 また一つ混沌の戦士の気配が消えた、今度は誰かと意識を研ぎ澄ませようとしたが止めた。誰が消えようと構わない、ただ分かる事は自分が『最後』になるという事だ。
 もうすぐ全てが終わる。復讐の為に築かれたこの世界も、繰り返されていた闘いも全て。

『主、支度の準備が整いました』

 外から聞こえたリッチの言葉に湯槽に浸かっていたガーランドは立ち上がり、湯殿を後にした。

 ガーランドは鉄靴を履きグリーブを取り着けてベルトでしっかりと固定する、いつもの動作だがいつも以上に念入りに着けていく。万一、外れるなどの無様な真似だけはしたくは無い。
 銘は無いが今までこの身を護ってきてくれた鎧だ、最後まできっと主の意思に反して護り続けてくれるだろう。
 そして――。

「皆、其処におるか?」

 ガーランドが振り向かずに尋ねれば後ろで地水火風の四つの柱が上がる。

『風のティアマト、此処に』

 竜巻が掻き消えて中から六つの多頭竜が現れ、全ての首を垂らしている。

『クラーケン ココニ イル』

 水柱が弾け、十の足を持つ海魔が姿を現し、一つの触手を胸の前にあて頭を垂らしている。

『火のマリリス、いつでも御身のお側に』

 火柱が鎮まり、その跡には三対の腕を持ち、蛇の下半身の女が右の拳を左手で包み畏まっている。

『地のリッチ、主の声に応じ参上致しました』

 砂塵が収まり、その場に居たのは法衣を纏いし髑髏が膝をつき腕を上げて畏まっている。
 混沌より生まれ堕ちた四体の異形、自分の事を主と呼び仕える頼もしい部下達。

「現状を把握しておるな」
『勿論でございます』

 ガーランドが確認する様にリッチに聞けばすぐに答えを返した。相変わらずの有能ぶりである。

「そうか……」

 それだけで充分だった。

『如何なされました?主』

 マリリスが気遣う様にガーランドに声を掛ける、ガーランドは背を向けたまま口を開いた。

「皆、今までよく儂に仕えてくれた。今より此処から去れ」
『『『『――ッ!!?』』』』

 四体が息を呑み、ガーランドを凝視する。その視線を受けつつ淡々と鎧を装着し続ける。

『…それは、我等が必要無いと仰るのですか?!』

 マリリスが声を荒げる、マリリスが荒げるのも無理はない、彼等は主であるガーランドに仕える事を何よりの誇りに思っている。そんな彼等だから最後まで共に在ると言う事は想像し難くは無かった。

『我等の身を案じるのであらば無用!我等が命は主の為に在るのですから!』
「それは、儂がカオスと同一であるからか?」

 ガーランドの言葉にマリリスは何も言えなくなった。

(随分と意地の悪い問いだ)

 ガーランドは自嘲する様に口の端を上げる。混沌より生まれた彼等が上に立っていたとしてもただの人間である自分に仕えるなどまずはありえない事だろう。それは一重に自分が自分達を生み出した元となったカオスと同一だからだろう。
 だからこそ最後は混沌の筆頭でもなく、カオスの同一でもなく、猛者ガーランドとして彼の宿敵と合い交えたいとガーランドは思っていた。

『……主』
「どうした、クラーケン?」

 クラーケンが口を開いた、他の三人より喋るのが苦手なクラーケンが珍しく口を開くのでガーランドは彼に失礼だが物珍しくて応じた――言う事はマリリスと同じだろうが。

『主 カンチガイ シテル』
「なんだと?」

 クラーケンの言葉にガーランドは思わず振り返った、クラーケンは尚も言葉を募らせる。

『ワレラ 主ハ 主ダケ』
「クラーケン…」
『クラーケンの言う通りです』

 クラーケンの言葉を今度はティアマトが引き継ぐ、六対の瞳が真っ直ぐガーランドを射ぬく。

『確かに我等は混沌の神カオスより生まれし者。しかし!例え、カオスより生まれようと、我等が主と呼び慕うはガーランドただお一人だけです!』
「ティアマト……っ」

 ティアマトの言葉にガーランドは胸の奥が熱くなり、彼等から背を向けた。自分はなんて愚かなのだろう、彼等の忠誠心がそんな薄っぺらなモノでは無い事を知っていた筈なのに。ガーランドは己の愚かさを恥じながらガーランドは兜を手に取り被った。

「……ならば、お前達の命、今一度儂が預かる」
『『『『主!』』』』

 ガーランドは綺麗に畳んである紫苑色のマントを掴んで翻らせ、留め具で留めてから彼等に振り返る。

「行くぞ」
『『『『御意!!』』』』

 四体は道を開け、その道をガーランドは歩く。勝ち負けなどもうどうでも良い。今は猛者として、彼等の主として最後まで貫くただそれだけだ。
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