包帯君を犯したい

「そういえば、彼氏さんが出来たんだってね」
「は?」
「男同士って聞いたときは吃驚したけど、でもあんな思われちゃったらまんざらでもないよね。熱いお話しされちゃってさ。思いあってるってやっぱりいいね」
「はぁ」
「今度両親に挨拶しに行くんだってちゃんとやるんだよ」
「へぇーー、はぁ、そう、ですね」
 全くもって気のない返事をしていればなに照れてるんだいと力強く叩かれる背。太宰は曖昧に笑いながらなるほどなと心の中で頷いていた。どうでもいいと思っていたけど、こういう風になるのか。

「……これは、さすがにちょっと困ったな」
 太宰は青い空を見上げてはぁとため息をついた。



 色々考えた結果、仕方ないと判断して太宰は探偵社にみんなが揃っているとき私的なことなんだけど、ちょっと困ったことが起きてるから助けてくれないかと言った。それに対するみんなの反応は他の人にするものならば失礼と言わざる終えないものだった。ガシャンばたどたどたと鳴り響く物音。何人かが床に転がり這いつくばりながら太宰を見上げてる。その目も、そしてそれ以外の目も見開かれ、この世のものではないものを見るような目だつた。はぁ? と誰かから聞こえる声。え? え?と戸惑っている姿をみて、太宰はため息をついた。
 なんとなく予想していたが酷いな〜〜と言ってしまっていた。誰のせいだとと国木田が叫んで、目を丸くして太宰をみてきた。
「待て、お前、さっきなんと言った」
「だから困ったことが起きてるから助けて欲しいんだよ」
 二度もなのにバタバタと音が響いた。
「怒るよ」
「いや、だって、だって太宰さんが助けてなんて言ってくることないじゃないですか! いつでも一人で無茶して」
「まあ、そのへんは置いておいて」
「置いておくな」
「まあ、いいから私の話を聞いてくれたまえ。私本当に困っているのだよ。一か月ほど前からマンション借りてたまにそこに帰ってるんだけどね」
 呆れた目といまだ信じられないというような目で見られるのに太宰は強引に話し始めていた。会話をぶちぎられた国木田は歯軋りして太宰を見ている。今にも首を絞められそうだが、それでも自分が話したいことを話そうと太宰はしたが、え? ちょ、待ってください。何の話ですか。え? 太宰さんって社長の家に住んでいるんじゃという幾つかの声にき消されてしまっていた。
「まあ、色々用事があって」
「私はまだ許してないがな」
「福沢さんは黙っていてください。その話は泊まるのは多くとも週に三回だけというので決着ついたでしょう」
 そういえば言ってなかったかとへらりと笑った太宰の声の後に低い声が聞こえていた。ちょうど用事があって事務所にいた福沢がジト目で太宰を見ている。現在太宰は福沢の家に住んでいるのだが、みんなには内緒で一人動きたいときなどにそれでは動きづらいので、仕事で遅くなった時用とか、たまには一人になりたいとき用とか、色んな理由をつけて新しくマンションを借りたのだが、それで福沢と小一時間ほど話し合うことにもなった。
 最後は無理やり借りたものの福沢はそのことに納得していなかった。 
 二人の間に流れる剣呑な雰囲気。みんなの目が太宰を責めてくるのに太宰はため息をついて頭をかいた。どう考えでも自分にとって都合が悪いことになるので、助けを求めるのやめてしまおうかとも思ったが、もう既に都合が悪いことにはなっていて、今ここで言わなくとも近いうちにばれてしまうことだった。そして後からばれる方がめんどくさいことになるのは確定している。
「……いや、マンション借りたんだけどね」
 太宰はまた強引に話を進めた。
「その隣のやつがストーカーだった……になっちゃったんだよね。
 しかも別に何もしてないけど、私と恋人になったって勘違いしたみたいで周りにいろいろ言いふらせてるのだよ。まあ、全部嘘なんだけどやたら多くの人に触れ回ってるみたいでさ、ご両親にあいさつにいくだとか、それが終わった外国に行って結婚式を挙げるみたいな話までされてる上に、準備までされてるようなんだよね。なぜか選んでウェディングドレスと婚約指輪が届いたりね。外つ国の物件情報が載った資料も届いたかな。
 そんな感じだからちょっとどうにかするの手伝ってほしいなって。
 ストーカー自体は私が相手できるのだけど、あちこちで流れている噂をどうにかしなくちゃいけないからね」
 ね、お願いと太宰は最後にかわいらしく首を傾けて見せた。あまり効果はないことはすでに知っているのに、ついそこらのおじさんにする対応がでてしまった。焦ってはいないがちょっと困ってるなと太宰はそんな自分に思う。あの人のせいだよなと太宰が見るのは乱歩だ。
 あきれたように乱歩は太宰を見て首を振っている。懐から取り出した菓子を食べ始めるのにとりあえず太宰はほっとした。
 周りが動く気配はまだない。
 太宰の言葉が認識できないのか。固まってしまっている。硬直が解けたら何を言われるのか胃が重くなりながら太宰は周りを見る。さんざん言われてしまうのは決まっているので、せめて本当はストーカーになってしまったのではなく、もともとストーカーだった相手の隣に太宰が引っ越してしまった事態は何としても隠そうと心に決めている。近隣の住民の身元調査はしていたが、いることは知っていた自身のストーカーに対して欠片の興味もなかったため、相手がストーカーだと気付かなかったなど知られたらそれはもううるさいことになるのは決まっているから。

 太宰はああ、面倒くさいことになっちゃったよなとため息をついた。はぁぁと声が聞こえてくる。

 




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