今日の夢は、ひどく不思議なものだった。いつも見る前世の記憶ではなかった。夢のなかで過去に存在した人と、これから存在する人と出逢ったのだ。こんなことは、今まで有り得なかった。いや、有り得てはならなかった。
「どうしちゃったのかなぁ、この世界」
「修鬼さん、おはようございます」
「よう、おはよう」
声がした方を振り向けば、そこにいるのはいつも見る友人だ。緩くウェーブがかかった淡い金髪と翡翠色の双眸の美少女、光蓮砂遠と、赤茶色の短髪に、深海色の双眸の少年、火良灯夜。
「普通、だよねぇ」
「今日不思議な夢を見ました」
「俺もだぜ」
「不思議な夢……」
修鬼は嫌な予感がした。毎朝待ち合わせをして、このような会話になることはまずない。それだけ砂遠と灯夜にとって不思議な夢だったのだ。
「若干わたしのような霧夜さん、という天使と、修鬼さんそっくりの暁さんという楽器と」
・・・・・天使と楽器?
一人はまだ理解できる。楽器とは一体。楽器が修鬼とそっくりだと。
「俺はキルアっていう男と、真都っていう剣士」
「俺も夢見たんだよ。黎っていう性別の概念がない男の子と、俺そっくりの修羅っていう鬼」
四分の三が夢を見ていた。しかも、過去と現在と未来が繋がって見えた夢だ。もはやこれを夢と言っていいのか、と修鬼は一人悩んだ。
「黎っていう子がさ、これは過去、現在、未来が繋がったことで見えた夢だって言ってたんだ」
「姫さんも言ってたよな?全ての時が一つになるって」
「えぇ、視えました」
つまり、この現在の世界で心の準備が満足に出来ているのは、未来を視ることが出来る砂遠のみということだ。未来が視ることが出来ずとも、落ち着いている人は若干二名ほど存在するとはいえ、そんなものはごく一部だろう。
「わたしがそう言ったら砂迦お兄様が、とうとう歪んだか、って」
まるで歪むことを知っていたかのような言葉だ。砂迦ならば知っていてもおかしくはないか、と動揺しないのは、言った者が砂迦だったからだろう。
少し歩いて行けば突然騒がしくなった。修鬼たちは顔を見合わせると、すぐにそこへ向かった。近づいてすぐ、夜色のセミロングの髪をした子どもが男に絡まれていた。所謂、ナンパだ。
「私は忙しいのだよ、そろそろ通してくれたまえ」
絡まれているとは思えないほど涼し気なアルトだった。その声がまた美しいもので。
「バイオリンの修理をしなくてはならないのさ」
どこかで聞いてことがある。修鬼はそんな気がした。
「ちょっと君たち、辞めなよ。嫌がってるじゃん、その子」
「あ?なんだって、綺麗な姉ちゃんじゃねぇか」
「喧嘩売ってんのか?あぁ!?」
拳を振り上げ、固く握ると、とんでもない気迫にやられ、男たちが一目散に逃げた。
「キミ、ありがとう・・・!」
「君は・・・夢にいた」
「修鬼くんだね」
「黎ちゃんでしょ?」
「うん」
夢の中でも思ったが、可愛いよりの美しい人だと思った。砂遠や砂迦と出会った時の衝撃と似ていた。
「おい、言葉」
「暁。もう、どこいっていたんだい?」
「道に迷っちまってよ」
修鬼そっくりの少年が出て来た。しかし、修鬼と違うのはその口調だろう。修鬼の死神《リーパーグリム》時の口調と似ているかもしれない。
「もう、霧夜さん!ここどこ?」
「分かりません」
「ここだって言ったのあなたですよね?」
双子にソックリの子どもまで。
「あ!修羅くん!」
「ん?修鬼くん、黎ちゃん!」
「これは、お兄様に言うべきでしょうか」
「言っとくべきじゃね?」
砂遠と灯夜は二人で決めた。こういう時は砂迦に聞くのが一番だ。
「あのですね、これからわたしの家に行こうと思うのですが、皆さま如何でしょうか?」
「私はいいよ」
「俺もOK。ね、シャオ」
「あぁ」
「お兄様!?」
砂楽そっくりの少年が現れた。着ている服以外は全て砂楽だった。
砂遠は、学校に休みの連絡を入れると、フェリーを捕まえ、トワイライト王国へ全員を案内した。