目を覚ませば、いつもの空がある
夢だと思っていた
あらゆる世界が一つになるなんて
俺たちは知らなかったんだ
世界は今いる場所が全てではないってことを
過去も
現在も
未来も
一つの世界であるってことを
そして
それらの世界は一つに繋がっていたってことを
人は皆、忘れていたんだ
この世界は全世界の一部でしかないってことを
俺は夢を見た。
俺の目の前に俺によく似た黒と毛先を赤に染めた長髪と深紅の瞳の少年と、夜色のセミロングの髪に蒼い瞳の子ども。見たことのない二人だ。俺とよく似た少年のほうは、若干困ったように笑い、夜色の子どもは周りを興味深そうに見回している。
「俺、世羅修鬼《セラシュキ》っていうんだけど、君たちは?」
「俺は暁修羅だよ。よろしくね」
「私は言ノ葉黎《レイ》だよ」
わたしということは、この子は女の子なのか。確かに男の子には見えない。
「設定上男だよ」
「設定上?」
黎という子どもが言うことには、この子は性別という概念がそもそもないのだという。自分で性別を決めることができるらしい。変わった種族なんだな、と思う。ただ、いくら性別が決められるとはいえ、設定を男としたのは間違いだったのではないか。
「理由は聞かないけど…よろしくね」
「聞かないなんて、キミたちは可笑しな人たちだね」
容姿からして、設定はどう考えても女の子にするだろう。この子もきっと訳ありだ。おそらく修羅くんも、微笑のなかに深い暗闇を抱えているだろう。
「それにしても……暁《ひかる》も真都くんも砂歌《サガ》も、どこに行ったのだろう」
「そういえば、こっちも霧夜さんも、砂輝さんも、シャオもいない」
よく似た名前だな。砂歌さんに砂輝さんって。この世には三人鏡に写したようにそっくりな人がいると聞いたことがある。黎ちゃんのところの砂歌さんや、修羅くんの国の砂輝さんのことはあまり知らないが、きっとトワイライトの砂迦さんみたいに真実を見る目に秀でているのだろう。
「ここもしかして、夢の世界かい?」
「夢の世界?」
黎ちゃんの発言に俺と修羅くんが鸚鵡返しをした。夢の世界?そんなものは本でしか読んだことがない。いつも見る夢と少し違ったから、おかしいとは思った。しかし、こんな場所まで世界と呼べるのか。
「夢の世界ってどういうこと?」
大量の疑問符が浮かんだが、すかさず修羅くんが尋ねてくれた。
「この世には、たくさんの世界が存在しているのだよ。まずはいつも私たちが住む世界。さらに夢の世界。この世界の裏側の世界。そして、私たちに最も近く、しかし最も遠い世界がある」
俺たちに最も近く、そして最も遠い場所にある世界。そんなものは本でも読んだことがない。黎ちゃんの国には異界見聞録的な書物でも存在するのだろうか。
「あ、もしかして……」
そこでふと思い出した。俺たちの近くにある世界が何か。それは修羅くんも同様で、何度か頷いていた。
「時間だね」
「そう。私たちが毎晩見る夢が世界であるならば、時間だって一つの世界なのだよ。私たちから見た過去も、未来も一つの世界。全ての世界はどこも遠いようでいて、目に見えない場所にあるというわけなのだよ」
現在、過去、未来、そして夢。これらはすべて一つの世界であり、一つに繋がっている。決してそれらはどの世界からも逸脱していない。してはならないのだ。それが世界の理であち、決して違えてはならないものだ。それが一つでも違えば、たちまち世界は崩壊してしまうかもしれない。
「キミたちはどこから来たの?」
「俺は、さっき砂螺国から出て来たところなんだけど」
「私は阿鬼国だよ」
……砂螺国だと?
砂螺国は、かつてのアルバ国の国名だ。ということは、修羅くんは過去の人。そして、阿鬼国。この国は聞いたことがない。未来の人、という認識でいいのだろうか。
「俺はアルバ国から来たよ」
「アルバ国?阿鬼国の旧国名だね」
いくら繋がっているとは言っても、夢まで過去と未来に繋がっているなど、誰が考えるだろう。しかも、その人が目の前にいるのだから。
「二人にそっくりな人がいるよ」
「え?」
「俺たちにそっくりな人?」
「うん。暁っていう人なんだけど……いまここにいないから、紹介できなくて残念だよ」
そっくりさん三人説は強ち間違いではなかったようだ。
「あ、そろそろ私たちの意識が戻るころだね」
「もう朝なんだ」
「また会えるといいね」
「会えるよ」
そう呟いたのは修羅くんだった。俺と黎ちゃんは顔を見合わせ、修羅くんをもう一度見た。
「でも……ある意味世界がヤバいのかもしれないね」
優しそうな微笑を浮かべていた人が二言目に発した言葉は、俺には脅しにしか聞こえなかった。それが現実になるような気がしたからだ。時間は縦軸になっている。それがずっと進んでも、それらが交わることは決してない。つまりそれは、時空の歪みを意味する。修羅くんはもう今は死んでいる人で、黎ちゃんはこれから生まれてくる人だ。そして俺は、今ここで生きている人だ。でも本当は俺たちは出逢ってはいけない存在なのだ。お互いに。それが夢で出逢ってしまっている。少なくともどこかの時間で歪みが生じたとしか思えない。
俺は、これが夢であってほしいと思った。俺の深層心理が作り出した存在であってほしいと思う。でも、この二人の言葉はあまりにもリアルに聞こえてくるのだ。まるでただの夢ではないと言われているようだった。
「さて、戻ろうか。お互いの世界に」
俺たちは頷くと、真っ白な光に包まれた。目を覚まし、カーテンを開ければいつもの空が広がっていた。
「夢だよね……」
俺はボソリと呟いた。誰もいない独りぼっちの広い家。学校に行けば砂遠ちゃんや、灯夜くん、夜刀がいる。友人がいても、なぜか埋まらないものがある。一気に現実に引き戻された。でも、それでいい。俺は、目を背けてはならない。俺の前世と、俺自身の過去から。