俺たちは、ギルドから二キロほど離れた駅から列車に乗り、小組織アルスファのアジトがあるという街まで来た。最寄りの駅とはいいつつ、そのアジトまでおよそ十キロ。さらに田舎といっては失礼かもしれないが、この街セイル行きの電車は一時間に一本しかない。あまりにも不便すぎはしないか。
「キリヤさんから地図貰ってたよね?」
「ああ」
「近道はないのか」
急がば回れという諺があるが、任務でそんなことは言っていられない。近道をカルナが探してくれた。キリヤがくれた地図とは言っても、紙地図ではなく電子地図。薄いがしっかりとした作りのその板を指で動かし、目的地までの道を見る。
「うむ・・・列車よりも船のほうが近かったかもしれない」
「うん、確かに港が近い」
資源の輸入のためか、港が近い場所にアジトは建設されていた。ただ、港にはアジトの人間がいる可能性があった。だからこそ、キリヤは列車に乗るようナビに道順を入れておいてくれていたのではないだろうか
「キリヤは、地図が苦手だからな」
「そうなんだよね・・・ここ、港から真逆だし」
気を利かせてのことではなかった。地図が苦手なキリヤのせいで、道順を教えてくれるはずのナビが狂ったのだ。地図は、別の人間に持たせるべきだったかもしれない。
「アシュラは、キリヤを知っていたのか」
「というか俺、結構出入りしてるんだけど・・・そんなに存在感ないかな」
「気配を消して来るからだ」
アシュラとキリヤが顔見知りだったこと以上に、ギルドに姿を現していたのだ。俺はそれに気付けなかっただけなのか、たまたま俺がいない時だったからなのか。後者だと思いたい。フラウやライトも顔を見合わせるのは初めてのようだった。つまりは・・・前者なのか。少し自信をなくしそうだ
「さてと、どう行くの」
「この地図を見ながら行くしかないな。ナビはあてにならない」
「それは違いないが・・・辿りつけるのか」
「この地図自体は間違いない。ふむ・・・飛ぶか」
・・・飛ぶ?
カルナの言葉に、俺の脳裏に疑問符が大量発生した。
「ジークフリート、アシュラ、飛べるか?」
「まぁ・・・錬金術あるし・・・それで鳥でも編めばなんとか」
「俺は錬金術はない」
「アシュラの鳥を借りて付いて来い」
「付いてこい」というが、この男は時速四百キロで飛んでいなかっただろうか。俺は、とりあえずアシュラが編んだ鳥に乗った。
俺たちは、セイルの上空を進む。上空から見ても、この街の異常性はわかる。この街で人の姿を見ていないのだ。家はキレイに残っているのに、人の気配はしない。出てこないわけではない。家からも気配を感じないのだ。
「何ここ・・・誰もいないね」
「そうだな。出て行ったのだろうか・・・」
「今回の任務の依頼者は、この街の長老からだった。だが、この街とは別の街から送られてきている。追い出されたのか、避難したのか」
「どちらにせよ、嫌な予感がする」とカルナは言った。カルナの嫌な予感は、何故かよく当たる。予知夢を見るというキリヤほどではないが
「アジト・・・って、あの建物かな」
「ビルのように見えるが」
「地下に牢屋がある・・・あれが住民じゃないか」
数キロ先まで見えるという千里眼。アーチャーのスキルだが、アーチャーのクラスのスキルを持ち合わせているカルナは、心得ているらしい。その眼には牢屋が映っている。しかも、その牢屋に押し込まれているのは住民ではないかと、カルナは言う。その推測に俺もアシュラも肯いた。この街で住民が見当たらないこと。そして、このビルの地下の牢屋に大勢の人が押し込まれていること。それを踏まえればその推測が立つのは自然だろう。
「このアジトのどこかに名簿とかあると思うんだよ」
「牢屋で殺すつもりはないのだろう。だとしても、なぜ名簿など記す必要がある」
「売るのではないか。あそこにいるのは、若い男女。長老らしき人物があそこにいないということは、老人は追い出されたのだろう」
働ける男女をここに残し、老人はこの街から追い出す。その理由は売りに出せないから。子どもは牢屋にいないという。
「子どもは・・・もしかして組織の人間にするつもりじゃ」
幼い頃から組織について教えて行くことで、洗脳し、組織の人間として使わせる。それならば、地下牢に子どもがいない理由も肯ける。しかし、カルナの表情は芳しくない。この状況だから、という理由ではなく、腑に落ちていないといった様子だ。
「アシュラ、持ち前の気配遮断のスキルで情報を手に入れて来い」
「うん。カルナさんたちは、地下牢に行って」
「了解した」
アシュラが、「というわけで」と呟き、カバンから怪しげな道具を取りだした。バーナーに見える。なにをする気だろうか。アシュラは、俺たちより先に最上階へ向かった。