太陽が昇り始めるより前の早朝、俺の目覚まし時計が鳴った。カルナの朝のウォーミングアップに付き合うために、意地でも起きてやろうと思ったのだ。これ以上離されてたまるか。フラウとライトも目を擦りながらも起きて来た。
「本当にこの時間に起きてくるとは・・・」
カルナは、すでに昨日フラウに貰ったコスチュームを纏っている。
俺たちは、すぐにギルドから出た。カルナの銀髪が、ころころと変わっていく。角度によっては七色に見えるところもある。フラウやライトも滅多にそういうところを見ないからか、好奇心にあふれた目で見ていた。
「そんなに見ないでくれ・・・」
「すまない」
カルナが困ったように笑った。確かにジロジロと、しかも三人から見られているというのは恥ずかしいだろう。ここにきてから、カルナは少しだが表情が豊かになった気がする。初めて逢った時は、能面のようだったというのに。
しばらく歩いて行くと、青々とした森が見えた。カルナは、当然迷うことなく、しかし太陽が昇らないうちに着きたいのか、かなり急ぎ足で進んでいく。まっすぐ歩いたところには、美しい泉があった。どうやら間に合ったらしい。カルナは、俺たちに構わず脱ぐと、そっと泉に足をつけ、ザブザブと水を蹴りながら泉の中央まで言った。
すると、ふと空が明るくなった。どうやら、カルナの父が御降臨されたらしい。
「来ないのか?」
「カルナさーん」
「アシュラ」
・・・この少年
オレは、この少年の接近に気付けなかった。カルナは目に入っていたらしい。気配を消して、間合いまで接近してくるとは、アサシンの才能でもあるのではないのか
「こんな朝早くにどうした」
「オレいつもこんな時間に起きるよ。まあ、パン買いに来たんだよ。その途中にカルナさんたちを見かけたから、付いて来たんだよ。ここで沐浴してたんだ。うん、朝のピクニックもよさそうだね」
透き通るような薄紫の空が頭上に広がっていた。雲ひとつない。確かに、ピクニックには最適かも知れない。しかし、早朝にすることではないだろうが。
「なんか、別世界に着た気分だよ。白皙の美人さんと、太陽の組み合わせを見ながらパンを食べる。最高だね」
今、とんでもない発言をしなかったか。相手が男だろうと、サラッとそういうことをいう質なのか。カルナは、まったく動じていないし、おそらく気にしてもいないだろう。
カルナは、沐浴が終わったのか俺たちの近くまで来た。カルナが魔力放出(炎)を発動し、それで乾かしていた。そんな使い方があるのか。「流石カルナさん」とアシュラ殿は称賛していた。何が流石なのかわからない。
ア「カルナさんもパンどうぞ」
カ「ありがとう」
カルナは、華奢だがかなり大食いだ。一体どこに吸い込まれていくのか
カ「すべて魔力タンクに吸収されていく」
ア「魔力になるんだ。ご飯が」
食事が魔力供給の源にもなるらしい。
フ「これうっめぇ!」
ラ「ほんとだ」
子ども二人がキラキラとした瞳でパンを頬張っていた。立派に魔術師をしていても、子どもは子どもなのだなと思う。
ア「そうそう、今日オレ、カルナさんのところのギルドから出動要請入ったんだよ。カルナさんと、ジークフリートさんと行けって・・・魔術師認定証ないんだけど」
カ「非正規雇用魔術師なのだろう。マスターが言っていたぞ」
ア「まあね。でも、カルナさんと一緒ならいいや」
アシュラはどうやらカルナと任務に行けるのが嬉しいらしい。
カ「では、ギルドに戻るか」
ア「ねぇねぇ、カルナさん、今日は何で戦うの」
カ「せっかくだからな、お前が作ってくれた弓を使わせてもらおう」
カルナは、どことなく弟に対するような優しく穏やかな眼差しで見つめて言った。
俺たちは、アシュラ殿も連れてギルドに帰還した。そこで、すぐにマスターの秘書のような夜色の長髪のおそらく男であろうキリヤに依頼書を渡された。
「アルスファを落とせ?アルスファとは誰だ」
「カルナさん、ご説明を」
「了解した。アルスファとは、人ではない。小組織だ。ハイト教団という組織の傘下の一つだ」
「よく知ってるね」
カルナ曰く、コイド隊長とジュールとともにハイト教団のアジトに潜入するという任務をしたという。その組織の制服を着て、幹部の男と接触。その男に小組織の名前を教えてもらったという。
「確か、その時の調査報告が残っていたはずだ。メンバーまでは知らんがな」
「傘下の情報を手に入れただけで大手柄ですよ」
「お前もどうだ、キリヤ」
「私は結構ですよ。ここに怪しい輩が来た時、ぶっ飛ばす人が人が必要でしょう」
天使のような微笑を浮かべながら物騒な言葉を放して来た。虫も殺せなそうな男に見えるが、俺と同じくらいのレベルらしい。
俺たちは、ギルドを出発し任務に向かった。
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登場人物
キリヤ・・・
ギルドマスターの秘書的な立場にいる。素性はかなり謎めいているが敵ではない、とカルナが看做しているので問題ない。Lv6というかなりの腕を持つ魔術師でありながら、戦闘員ではない。腹黒説を囁かれている。
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