第2話〜2〜




「む・・・」


突然カルナが立ち止り、最近買ったという携帯を取り、電話し始めた。


「お前たち、鍛冶屋に行ってもいいだろうか。注文していた品が出来たというのでな」

「構わないが」

「さっき言ってた鍛冶師さんのところ?」

「そうだ。弓を注文している」


そういえば、『マハーバーラタ』では至上の弓使いだったな。神話で無双を繰り広げたという逸話を持つカルナが、とうとう弓を取るというのか。カルナはもうランサーやセイバーと拘る必要はないのだったな。
しばらく歩き、カルナが信頼を寄せる鍛冶師がいるという店に来た。これまでの建造物とは毛色が変わった。黒を基調とした建物だ。柱や窓縁など所々緋色に塗られている。気にはなっていたが、ここが鍛冶屋だったとは。ここの鍛冶師とは友人らしい。カルナは、なぜか交友関係が広いのだ。


「アシュラ、いるか?」

「ん、いるよー」


素材が詰まった部屋から暖簾を潜り、その鍛冶師が出て来た。ウルフカットになった漆黒の長髪の毛先は、血のような赫に染まっている。双眸も血を想わせる赫だ。絶賛青年期の少年だ。そのアシュラと呼ばれている少年は、カルナの姿を一瞬見た後、今度は武器庫に戻り弓を持ってきた。まあ、格好が新鮮なのだろう。


「ほう、これは・・・」

「すごいな」


一目見ただけで目を奪われる美しい緋色の弓だった。模様は丁寧に金で彩られている。どことなくカルナを想わせる。カルナは微かに笑みながら、嬉しそうにその弓を受け取った。


「流石だな。ありがとう、アシュラ。千人抜き出来そうだ」

「お褒めに預かり光栄だよ」

「これは・・・いくらだろうか」

「カルナさんが思う値段でいいよ」


そうか、というとカルナは金でなく別のものを渡した。

カルナが報酬として渡したものに、俺たちは沈黙した。失われた秘宝と言われた洛陽のピアスだった。確か、人理修復をしていた際に渡していた気がするが。これが、施しの英雄と謳われる所以なのか。


「えっとね・・・いいの、カナ?」

「ピアスにせず、そのまま渡してもよかったのだが」

「それは、いろいろ問題あるよ」


カルナの信頼の証なのだろう。「いろいろ問題あるよ」と言ったということは、彼はカルナの正体に気づいている。はたまた、カルナが言ったのか。ただ、お返しにしては重すぎないか


「で・・・その衣装は・・・」

「フラウが注文してくれていたのだ。少し父上の服に似ている」

「へえ〜似合ってるよ」

「そうか。では、有り難く使わせていただこう」

「うん」


カルナは、アシュラという一級鍛冶師に礼を言うと、鍛冶屋の引き戸を開けた。しかし、すっと動作を止め、振り向いた。


「この弓の名は?」

「太陽の弓≪スーリャ・チャーパ≫・・・かな。お父さんの名前を直接は、ちょっとヤバいよね」

「うむ、確かに・・・少し畏れ多いな」


カルナは、弓を見つめながら言った。アシュラは、思い出したように俺やフラウを見た。存在を忘れられていたという事実。


「オレ、カルナさんと同じインド出身だよ。ヨミ・暁・アシュラって言うんだ。仏教の八部衆の一人阿修羅の血を継いでるんだ」

「俺はジークフリート。よろしく」

「ええっ!あの・・・ニーベルンゲンに出てくる?」


どうやら、知ってくれているらしい。よかった。カルナは知っているが、ジークフリート?誰それ?などと言われれば流石に立ち直れる気がしない。若干アストルフォを想わせるが、気のせいだろうか


「今度、俺の剣注文してもいいだろうか」

「うんうん、御贔屓にね」


快諾してくれた。俺たちは、アシュラに手を振り、店を出た。見た目は少年。しかし、纏う雰囲気はなんとなくただの人間とは思えなかった。


「アシュラは・・・鬼の種族のトップ鬼神だ」

「鬼・・・」


アシュラに限らず、鬼は何故か昔から忌み嫌われ、差別されてきたという。そんな鬼たちは、普通の人間と変わらない姿で、さまざまな国に紛れている暮らしているという。そのうちの一人が、あの一級鍛冶師、アシュラということらしい。

俺は、あの少年が鬼であることを、カルナから聞いて知った。人懐っこそうな男だったし、嫌われる要素はなさそうだが、その種族の、しかも桁違いに強力な鬼神として生まれたために差別されたのだ。あの少年に対してわかったのは、カルナを信用しているということだ。確かに、カルナは誰かを侮蔑したりしないし、差別もしないだろう。そういう意味では、彼にとってはかなり励みになっていることだろう。


「あの男は、いい人だぞ」

「そうなのか」

「仲良くなれそうな気がする!」

「だが・・・ある組織に対しては、殺したいほど憎んでいるらしい」


鬼を差別した組織のことだろうか。カルナは、それ以上のことは話さないと言った。人の過去の話を本人の許可もなしに話すことなどあり得ないということだろう。
ふと思ったことがある。鬼神ということは、あの少年は強いのだろうか、と
そんな俺の心を読み取ったのか、カルナが言った。


「ああ、強かった」

「手合わせしてみたいものだ」

「油断しないほうがいい。何しろ、レベルはお前と同じなのだから」


・・・マジか
俺らしくもなく、どこか現代風の口調になってしまったが。あの少年は、強いうえに俺と同じレベルだと。強くないわけがない。とても興味があるが、カルナの言うことを聞いて、少し遠慮したくなった。鬼という種族は破壊力に長けているらしい。そのなかでも鬼神の破壊力は桁違いらしい。普通の人間ならば、骨が粉々になるという。


「次の任務は、この弓を使おう。因みに、この弓は宝具としては、Aランク相当だぞ」


俺がそれを聞いて固まったことは言うまでもない。


「なぁなぁ、師匠。いつも風呂入ってんだよな?」


・・・いきなりすぎはしないか?
俺は若干、そこは今言うときではないだろう、と想いながらフラウを見つめた。カルナが行っているのは、風呂ではなく、沐浴だという。しかし、行っているのは、沐浴だけではない。非凡な才能を持っていながら、彼はいつも槍の修行をしていたのだ。まるで踊るように。ときに優雅に、ときに激しく、鋭い瞳で虚空を睨みつけながら。


「明日ついて行く」

「早く起きられるなら、別にかまわない」

「頑張って起きる」


カルナは、そういうフラウを素通りし、ギルドの扉を開いた。




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登場人物

ヨミ・暁・アシュラ・・・
  仏教の守護神八部衆の鬼神の末裔で、その鬼神の記憶を持ったまま生まれた。過去の差別のトラウマから、あまり人と関わりを持たないが、親しくなると本来の性格を見せてくれる。特徴的な髪と双眸をしているので、出かけるときはローブを纏っている。カルナを敬意の対象とみている部分もあるらしい


アシュラ・・・
 顔が三つ、腕を六本持つ修羅道の主。仏教の守護神で、八部衆の一人。悪役に見られているが、善神



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