――なぜ、こうなった


ジークフリートは心のなかで呟いた。
本来なら『聖杯』と己を象徴する『触媒』を必要とするはずの英霊が、『聖杯』もなく、『触媒』もない場所に召喚《よ》ばれてしまったのだ。
　悲願《ねがい》を叶えるために繰り広げられてきた戦争はなく、その戦争のために起きた悲劇も生じていない。
　そんな場所に何の因果か、かつて赤陣営と黒陣営という敵対する関係にあり、互いに好敵手として評価し合っていた二体の英霊が召喚されたのだ


ジークフリートは突然この世界に召喚された。
生前、彼は『ニーベルンゲンの歌』に謳われるネーデルランドの王子であり、かつて『聖杯大戦』では黒のセイバーとして召喚された。
そして、その彼が彷徨っているかのような旅の途中で出逢った存在。生前インドの叙事詩『マハーバーラタ』の大英雄。かつて、『聖杯大戦』では赤のランサーとして召喚された。『施しの英雄』カルナだ。


初めて彼と再会―この世界では初見―したときは、状況が掴めず動揺していた。決して顔には出ていなかったが、彼も動揺していたはずだ。ただ、彼は召喚されたわけではなく、裏の世界に興味を持ってしまい、神がいる世界から降りて来たという。未踏の地で再会したライバルだった者同士で、導なき道を旅した。
そんな旅の途中で


？「お前さんたち！」

二人「？」


突如現れた巨漢に呼び止められた。しかし、ジークフリートとカルナはその巨体を見上げるだけという反応の薄さだった。


？「わしはハイリ。タイタン族の魔術師だ」

ジ「魔術師？あなたが俺を召喚≪よ≫んだのか？」

ハ「いや、お前さんたちの姿を捉えたわしの秘書が知らせてくれてな。もしや、旅の途中では、と思って声をかけたのだ」



旅の途中というのは間違いではない。ただ、ジークフリートとカルナはほとんど迷子状態だったのだ。とりあえず歩き続けていたら、ここに辿り着いたというだけなのだ。


カ「オレたちに用があるのか？」

ハ「如何にも」


ジークフリートとカルナは顔を見合わせた。切羽詰まっているのだろうかとばかりに


ハ「旅の方々、うちのギルドに来ていただけませんか」

カ「わかった」

ハ「本当ですか！？」


頭を下げていたハイリという男は、カルナの即答に弾かれたように顔を上げた。ジークフリートも少々驚いたが、カルナの答えには賛同し頷いた。
その日から、二人はハイリという男のギルドに属すことになった。どうみても異端な二人を、ギルドの者たちは歓迎してくれた。騒々しいが、その賑やかさが嫌ではなかった。二人にとっては珍しい光景ではあったが、それもいいだろう、とカルナはすぐに受け入れた。

ジークフリートたちは、フレアフルールで生きて行くことになった。









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ジークフリート・・・ネーデルラントの王子。ドラゴンスレイヤーの異名を持つ。悪であろうと請われれば願いを叶え、善であろうと請われなければ見捨てた歪な正義。麻色の精悍な顔立ちで、灰色の髪と翡翠色の瞳が特徴。かなり高い防御力と膂力を誇る。聖杯戦争で黒のセイバーとして召喚された英霊

カルナ・・・マハーバーラタに登場するインド屈指の大英雄。生き様から『施しの英雄』の異名を持つ最強というに相応しいサーヴァント。全てを奪われ、あらゆる呪いを受け、裏切られ、敗れるも、決して誰も恨まなかった聖者。美男子で、銀髪に形容し難い青っぽい瞳が特徴。華奢な体型。聖杯戦争で赤のランサーとして召喚された英霊