アシュラside
俺は、カルナさんとジークフリートくんと別れ、逸早くとか言いつつ屋根で一人で作戦を練っているところだ。
キリヤさんがくれた書類のなかに、アジト内の地図があった。俺たちの前に諜報部員を派遣されていたらしく、彼らの情報から地図を作成したのだろう。キリヤさんじゃない人が。
「・・・資料室・・・から探すか」
外から入りやすい場所に資料室を設置してある。情報の管理とか大丈夫なんだろうか。敵のことなんて知ったことではないけれどね。
「ロープよし。フックよし。バーナーよし」
何をする気だ、と思っている君たち。これから俺は外から侵入します。
俺は、鉤爪のようになったフックの下の輪っかのところにロープを巻き付け固定した。バーナーはカバンに入れた状態で、慎重に資料室がある階まで降りていく。
俺は、侵入するために石で割るなんてことはしない。窓をバーナーで溶かすのだ。バーナーで窓に穴を開け、その隙間から腕を入れて窓の補助錠を解錠した。これなら音を立てずに侵入できる。バーナーがないときは、カルナさんの炎で溶かすという手もあるにはあるが。
「うぅーん、監視カメラあるよねぇ・・・あ、ダミーだった」
窓から侵入することを考えていたのか、考えていなかったのかは分からないが、まさかダミーを取り付けていたとは。牽制のつもりだろう。監視カメラの型を知っていなければ、まず見分けがつかない。
「こんなにある・・・最悪だ。検索機があるあたり、コイツらアホだな」
つい汚い言葉が出てきてしまったが、普通資料室に検索機を置いておくだろうか。確かに、窓は完璧だった。言ってしまえば、完璧なのは窓のみ。
「個人情報とかあるかな。あ、あっさり」
俺は、個人情報がある本棚へ向かうと、名簿らしきものを探し出した。個人情報を教えるための情報を提供しているが、これはいいのか。流石に心配になってくる。
俺は、すぐにキリヤさんに念話で連絡を入れる。
「キリヤさん」
『はい、キリヤです。ご要件は?」
「セイルの住民の人数わかる?」
『少々お待ちくださいね』
パラパラと書類をめくる音がする。めっちゃ探してくれている。
『324名になります』
「六十歳以上を抜いた数は?」
『262名です』
「子どもの数は?」
『少なかった気がしますが。64名ですね』
「わかった、ありがとう」
俺は、念話を切った。
六十歳未満の住民の数は、262人そのうち、0歳から10歳までの子どもが64人。11歳からは組織の人間として使うにしては、成長しすぎている。大人からの影響を特に受けやすい10歳以下の子どもたちなら、思いたくはないが、洗脳しやすいのは確かだろう。そのうち聡明で手に負えないような子は一部だろう。
戸籍の複製と思われるものの数を調べたところ、牢屋に放り込まれていると思われる数と一致した。なのに、子どもの情報はない。組織の人間から探してみれば、最近組織に属した人の数と子どもの数が一致。一斉に入属するには多すぎる人数だ。間違いないだろう。
「さて・・・この組織の情報を・・・」
ふと、俺の近くで気配を察知した。悪そうな気配ではないが、ここに侵入しているあたり、間違いなく只者じゃない。
「出てきたら?」
「まさか、見つかるとは・・・引退を考えたほうがいいでしょうか」
現れたのは、ピンクっぽい茶髪をローポニーテールで纏めた、アメジストのような瞳の俗に言うイケメンが出てきた。
「名前聞いても問題ない人?」
「普通無理ですが、敵ではないようなので。私は、優流《ウル》と申します。ここにはスパイとして派遣されております」
俺を完全に敵ではないと判断しているらしい。スパイとして派遣されたということは、何処かの組織の人間か?
「あ、俺はアシュラだよ。ギルド『フレアフルール』の非正規雇用魔術師」
「おや、フレアフルールの方でしたか。私は、『ロータス』の者です」
『ロータス』聞いたことがないわけがない。マスターを含め、たった11人しかいないギルド。そのギルドマスターは、この世に両手の指の数にも満たない現在最高レベルの最強の男。その素顔は謎に包まれている。その名は、砂威《サイ》。名前しか知られていない。
「大物が出てきちゃったよ。で、そんな人がこんなところで何してんの?」
「ここで新人として働いているのですよ。情報収集のために」
「砂威さんに言われて?」
「でなければ間違いなく怒られますよ。過保護なので」
意外だった。最強の魔術師で、しかもギルドマスターで、偉そうな人かと思ったら、部下に対して過保護だという。派遣されたあたり、かなり信頼を寄せられているのだろう。『ロータス』の魔術師は伊達じゃないな。
顔を見てみたいなぁ。砂威さん。
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ギルド
ロータス
・・・マスター砂威と十人のみで構成されている謎のギルド。そのギルドのマスターの顔は誰も知らない。
登場人物
優流
・・・ロータスに所属している諜報部員。ピンク混じりの茶髪が特徴