「やなぎ!」
後ろから声をかけられ振り向けば、小走りで俺のもとへ来る名前が見えた
何だかその様子が愛らしくて思わず笑みをこぼす。おっと、いけない。緩みすぎる頬をひきしめ名前に向き合う
「やなぎ、あのね、ゆきむらから、伝言を預かっててるの」
「もしかして部活関係の話か?」
「そう!今日は練習のメニュっ、う……!」どうやら舌を噛んだみたいで、口元を抑え悶絶しはじめた名前に大丈夫かと聞けば、頭をこれでもかと何度も縦に振った。どうやらあまり大丈夫ではなさそうだ
「なんか、今日はよく舌を、噛んじゃって、痛いの」
「それは…体調不良の前触れかもしれないな。少し口をあけて見せてくれないか」
口を見たとこで俺に何かができるわけでもないのだが、まあいいだろう。流石に心配より下心を出しすぎたかと思ったが、名前は特に疑うわけもなくおずおずと控えめに口をあけた。
「これは……」
名前の舌は予想以上に傷ついていた。ところどころ舌を噛んだであろう傷痕が赤黒く滲んでいて、とても痛々しい。
通りで今日は少し舌っ足らずなわけだ
ばい菌が入ってさらに炎症をおこして悪化しては大変だと病院へ行くことを進めたが、名前は昨日と同じように頑なに行くことを拒否する。何でも「今日は部活あるから、舌程度で出ないわけにはいかない」だそうで。
こうなった名前はなかなか動かない、頑固者だった
俺が溜め息混じりに呆れれば名前はへへ、と笑う。そのとき見えた名前の口端に俺は思わず目を疑ってしまった。
「すまない、もう一度口を開けてくれないか」
「え?…はい」
「もっと大きく」
「は、はひ…!」
名前が口を大きくあければ、あの痛々しい舌と共にきれいな歯が姿を表す。この中にある違和感は傷だらけの舌と、尖った少し長い八重歯だった
「名前…お前そんな八重歯が長かったか?」
「八重歯…うわ、本当だ」
俺の記憶が正しければ、昨日名前の口からは八重歯が見えなかった気がするのだがいったい何がおきたんだ
戸惑う俺を余所に名前は大して動揺してないみたいで、おもしろそうに自分の八重歯を触っていた

「おーい二人とも」
「ゆきむら!」
「全く遅いなあ。伝言を頼んだのに名前が帰ってくるの遅いから俺来ちゃったよ」
「ごめんごめん、部活、いこうか」
俺が考えこんでいるうちに精市はさっさと練習について俺に伝え、部活へ行こうとする。名前も精市へ腕を連れられ部活へ行こうとするので俺は思わず名前を呼び止めた。しかし名前はだいじょうぶと、昨日と変わらない笑顔で言うのでまた俺は何も言えなくなってしまう。俺は、名前の笑顔に弱かった
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