「本当にお前は馬鹿だな、名前。」
「うっさい柳がバーカ!」
今日もまた始まってしまった柳君と名字さんの喧嘩。喧嘩といいますか、名字さんが一方的に柳君に言い負かされてキレているだけなのですがね。
名字さんは、柳君が女の子からの激しいアプローチに疲れ、悩める私たちに唯一信頼できるといって部活に入ってもらったマネージャーで、かれこれ2年はお世話になっています。
なんでも近所に住んでいる一つ下の幼なじみだそうで、よく彼が彼女のお世話していたそうです
最初みなさんは半信半疑、といったところでしょうか。私でもいくら柳君とはいえ本当に女性をマネージャーに入れて大丈夫なのかと、少し疑ってしまったものです。
しかし、柳君はみんなからの口々の言葉にたった一言こう返しました。
「心配ない、名前は正真正銘ただの阿呆だ」
と。

実際に名字さんを入れて、なんとなく意味がわかりました。こんなこと言ってはなんですが彼女はとんでもなく頭が弱く、何も考えないで行動するような人だったのです。
最初はマネージャー業も目も当てられない程でしたが、名字さんは入ったからにはと死に物狂いで自分の仕事をこなし、数ヶ月たってやっとなんとかまともになったぐらいです。
そのひたむきな下心の無い姿に、疑っていた私達は徐々に彼女に心を開いて、今ではいい仲間関係を築いています。

しかし私達がまともになったなと感じていても、柳君がいうにはまだまだらしくキツいダメ出しを日々くらっていては名字さんが悪態をつき、さらに柳君がたたみかける事による口喧嘩が毎日勃発していたのです。
些細なものから割と大事まで起きるので日常茶飯事すぎて慣れたといいますか、もはや名物といいますか。
でも今日は少し様子が違ったみたいです

「名前、このひどい点数はどうしたんだ」
「……」
「俺は言っただろう、勉強と部活動が両立できない奴にマネージャーは任せられないと」
「……、…」
「仕事も満足にできないみたいだしな、やる気がないならやめてもらっても構わない」
「……!…、…」

名字さんは柳君を睨んだかと思うと、そのままぱたぱた靴を鳴らしながら走り去っていってしまいました。たまたまこの場に居合わせてしまった私は柳君に彼女を追いかけないのか、問おうとしましたが柳くんは私の言いたい事がわかっていたようで、私が問うより先に口を開きました
「あいつはきっと洗濯をしにいっただけだ。追いかけなくても問題ない」
「ですが…柳君、少々言いすぎだったのでは」
彼女にやる気がないわけがない、それはたった二年間テニス部を共にしていた私にもわかるのですから、柳君でもわかるはずです。だから、彼が名字さんを追いかけてフォローをかけ直すべきだと、そう私は思いました。しかし柳君は頭を横に振ります
「駄目だ。あいつは俺がキツく言わないと、意味がない」そう柳君は言います。
そんなに名前が気になるのなら柳生、お前が行ってくれないか。とも続けられました
私自身名字さんの事は大切なマネージャーとして気にかかってましたし、何より女性を放ってはおけません。二つ返事で頷けば柳君は頼む、と一言困ったように笑いながら言いました
いつもなら読み取りづらい柳君の表情は、今回とてもわかりやすい顔をしていて、なんとなく閉ざされた瞼から柳君の気持ちが見えた気がします
私は名字さんの後を追うべく、急いでテニスコートを後にしました


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