今日は珍しく早起きができたので、わたしは余裕をもって家を出る。いつもは遅刻しそうで苛立つ憎い通学路も今日だけは違って見えた
早起き、万歳
清々しい気分でゆっくり歩いていると突然「わっ」と後ろから軽い衝撃がして、否応無しに私は驚く。驚いた際に女子とは思えない悲鳴も一緒に出てしまった
何となく嫌な予感がして私を驚かせた人を確認すれば案の定、幸村くんだった
「おはよう名字さん」
「…おはよう幸村くん」
「名字さんの悲鳴バリエーション豊富だね」
うるせえ誰のせいだと悪態をつくことはもちろんできず、どう返事しようか迷っていれば幸村くんが「あとくん付けはいらないんだけどなあ」とぼやいてくれたおかげで話題が変わったようだ
ごめんね幸村と私が歩きだせばいいよと幸村も横に並んで歩きだす。
あれ?と思ってためしに私が止まれば幸村も止まる
…あれれ?
「どうしたの名字さん」
「いや、その、幸村、友達は」
「俺学校行く時は一人なんだ」
やばい、なんか流れで勝手に一緒に行く感じになってるこれは本当やばい
幸村に一人で行きたいも言えない私もアレだが、こういうときに限って一緒に行く友達もいないのも最悪すぎる
こんなの他の人に見られたら本人達に何の関係がなくても勝手に捏造されてあらぬ誤解が生まれアッというまに学校へ広がるだろう
ましてや相手が幸村とか今度こそ私の存在が抹消されてもおかしくない
落ち着け…落ち着いて回避する方法を考えるんだ、直接言ってもどうにかできる相手じゃないことは過去の経験でよくわかっている
「ゆ、幸村」
「なに?」
「私お昼ご飯無いからコンビニ寄りたいんだけど…」
先行っていいんだよむしろ行ってくださいという気持ちをこめて幸村をチラリと見る。返ってきた言葉は「うん、いいよ」だった。
違う!私は一緒にコンビニに行く同意を求めてたわけじゃないんだ!
いやもしかしたら私の言い方が悪かったかもしれないと思いさらに「遅くなるよ?」とたたみかけるも「時間結構余裕あるから平気じゃないかな」と返され私はもうなすすべがなかった。こんなことなら調子乗ってはやめに出ないで家でギリギリまでまったりしておくべきだったのだ

唯一の救いはこの時間、そして途中までの通学路にあまり人がいないことだろう。正直中途半端に希望の糸を垂らされても後のことを考えればさらに辛くなるのは明白なのだが。

会話もそこそこでコンビニにつくが、すでにサンドイッチを所持している私に買うものはない
ついでをいうと財布も持っていなかった
「幸村、えっと、財布なかったしやっぱり買わなくていいや」
「…お昼はどうするの?」
「無くてもなんとかなるよ」
ここで実はサンドイッチありましたと言っておけばよかったものを嘘に嘘をさらに重ねる結果となってしまったが、もう後戻りはできない

幸村は私を黙って見つめる。苦し紛れの嘘はわかりやすかったのだろうか
幸村からの出方をうかがっていると、幸村は「ちょっと待ってて」と言ってどこかへ行ってしまった。
数分後戻ってきた幸村の手には、市販のパンが握られている
「あげる」
「え、これ…」
「お昼無しは流石に辛いと思って」
なんと幸村はわざわざ私のためにパンを買ってきてくれたらしい
幸村の優しさと比例して罪悪感がどんどん募っていく。すでに買ってこられたパンを拒否するなんてもはや私にはできなかった
ちくちくと良心が痛む中、私はありがとうをしっかり伝えると幸村は満足そうに微笑む。さらに良心が痛みで悲鳴をあげた気がした
「お金明日絶対に返すから」
「いいよお金なんて、俺が好きでやったことなんだし」
「でも、前もしてもらったし。それじゃ私の気がすまないよ」
「…じゃあ貸し一つってことでどうかな」
何かあったらよろしねと言いながらパンを押し付けられる。無理やりお話を終了されてしまったが、なんとかタダでおごってもらう事は回避したみたいだ
本当はお金を押しつけてでも払いたかったのは秘密である

「さ、学校行こっか」

私はもう誰にも見られませんようにという不可能な願いを神に祈るしかないのだろうか
罪悪感と不安に押し潰されそうになりながら、私は幸村の後ろをそっとついて行くのだった
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