「名字さんさあ」
「何?幸村くん」
「それ、その呼び方やめてくれないかな」
女子から幸村くんって言われるの気持ち悪い、とシャーペンをくるくるまわしながら退屈そうに言い捨てた。
この学校の女子は、精市くん、とか幸村様、とか陰で密やかに呼んで人を覗けばほぼ全てが幸村くんの事を君付けで呼んでいると思うのだが、幸村くんはその全女子をアッサリと一言で気持ち悪いとまとめあげた事になる。すごい根性だ。

だから名字さん俺のことは名前で呼んで、そう言われた瞬間意味がわからず顔をしかめるとクスクス笑い絶対名字さんならそういう顔すると思った、と愉快そうに笑った。どうやら冗談みたいだ、私は完全に遊ばれている様である
「俺のこと幸村って呼び捨てでいいよ」
「よ、呼び捨て…」
「駄目なの?」
「ちょっとハードルが高いんですけど」
ただでさえ話しかけるのに抵抗があるのに馴れ馴れしく幸村とか他の男子みたく呼べないっていうか
幸村くんは幸村くんだから無理。そう伝えればふうんとつまんなさそうに前を向いた。どうやら真面目に授業を受けるらしい
少しホッとした。私もちゃんと授業すべく黒板へと集中する
これだよこれ、学生の本分。
お喋りせずただひたすらノートに文字を書き写すだけの簡単な、
「えい」
「ぬああ!」
なんと、こいつはよりにもよって私が集中してる時にあろうことかシャーペンを使ってわき腹をつついてきたのだ
もちろん突発的な攻撃を私が回避できるまでもなく反射的に起立。先生とクラス中の視線が痛い
寝ぼけましたと言い訳しながら座り直す
、隣ですまし顔をしていた幸村は、私が座った瞬間腹を抱えて笑いだしやがった
「幸村!!」
「あははほら呼び捨てできるじゃん」
これからもそれでよろしくとにっこり笑顔で言われて完全に毒気が抜かれてしまった。幸村くんの笑顔には何か不思議な力でもあるのだろうか
あれ、これ似たような事が前にもあったような
デジャヴって、こわい。
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