「ブンちゃん、今日ミョウジの家に行かんか?」
日曜日の呑気な日にいきなり何を言い出すかと思えば、
ミョウジの私生活が気になるらしい。
仁王が突拍子もないことを言い出すのは慣れたと思ってたけどよ、これは無いだろーが
「ブンちゃんは気にならんのか?ミョウジが普段何してるのかとか」
「別に気になんねーな」
「ミョウジの私服とか」
「特に」
「ミョウジが家では何を食ってるのか」
「それはちょっと気になるな」
そう言った時の仁王のニヤニヤ顔といったら
めちゃくちゃ腹が立ったので軽く脛を蹴ったら大げさにこいつは痛がった。白々しい野郎だぜ
「っていうか仁王、そんなにミョウジのこと気になるってお前まさかミョウジに恋…」
「いやそれは無い」
「ま、真顔で即答…」
曰く、純粋にどんな生活を送ってるのか気になってる、との事らしいけどどうだか。恋では無いって言ってたけど仁王にしてはミョウジのこと結構気に入ってる節あるしなあ
まあ気持ちはわからなくもないけどよ。
アイツ弄るのすっげー楽しいし
「で、ミョウジと約束はしてるわけなんだよな?」
「いや、アポは無い」
「は?」
「突撃するんじゃ」
「流石にそれはやばいだろぃ」
「大丈夫、ミョウジの家の場所なら昨日聞いたしアイツは菓子持ってけば怒ることはないじゃろ」
おいおい…いくら何でもそれはねーだろ
っていいたい所だけどマジで怒らなさそうだから笑っちまうぜ
仕方ないから俺も10円菓子持って一緒に行ってやるか

***

そんでミョウジの家の前に来たはいいが…アイツ、
でっかいマンションのテッペンに住んでやがった。なんか意外だ。かといってミョウジが一軒家とかに住んでる想像もあんま出来ねえけど。俺は、ミョウジのこと不思議生命体か何かだと思ってるのかもしれない。そのことミョウジにいったらアイツ首かしげて意味わかんない、って顔しそうだけど。安易に想像できるぜぃ

ぴんぽん。間の抜けた音が響く。
仁王がチャイムを鳴らしたのだ。俺はなんとなく、隣にいるのが嫌だったので背後に控えることにした
…しかし、ミョウジは出てこない。
もしかしてこれ、ミョウジ留守なんじゃね?
どうするんだよ、って視線を仁王に背後から送ったが、コイツは気がついてないようだ

「ミョウジちゃーん、遊っびましょー」
なかなか出てこないミョウジにしびれを切らして、仁王はドアの向こう側にいるであろうミョウジに声を掛けた。
お前は小学生のガキかよ
俺が呆れて、帰ろうか迷っているとドアが静かに開いた。
ミョウジだ
「ミョウジちゃん、出るの遅いぜよ」
「すみません、初めてこんな音が鳴ったんで…」
「こんな音?…チャイムのことか」
「あー、チャイムっていうんすね」
「これはなあ、悪いヤツが来た時に鳴る音じゃき」
「! じゃあ今その悪いヤツがいるってことっすか!?」
「んな訳ねーだろーが!人が来たことを知らせる音だよ!!
ミョウジ!お前もそれくらい知っとけい!」
「そうぜよミョウジ、しっかりブンちゃんに謝るんじゃ」
「すみません、丸井さん」
「お前もだよ仁王!ミョウジに変なこと教えるな!!」
「プリッ」
最近の仁王は、すぐこうやって間違ったことをミョウジに教える。訂正するのは俺だ。本当にミョウジは世間知らずで困るぜ…今までどうやって生きてきたんだ…?

「ていうかミョウジちゃん、お前さん休日でも制服なんじゃな」
「なんか楽でして。たくさんありますし」
「残念じゃ、私服どんなのか見たかったのになあ…な、ミョウジ。俺ミョウジの家の中、見てみたいぜよ」
「はあ…別にいいんすけど、何も無いっすよ」
「構わん構わん、じゃ、お邪魔しまーす」
「あっ待てよ仁王!」
「丸井さんも入りますか?」
「お、おう…」
いいのかミョウジ、仮にもお前女だろ
いや別に俺達がミョウジをどうこうするわけじゃないけど?!普通そこは恥ずかしがらないか?俺だったらいきなり家の中見せるなんて無理だね。せめて掃除してからだ
ミョウジは特に抵抗無いみたいだし普段から掃除してるのかも…と思って俺も靴を揃えてお邪魔する。
仁王は…部屋の前で立ち止まっていた
部屋の中入らないなんて、何事だ?遠慮でもしてんのか?

でも、仁王がボーッと突っ立ってる理由はすぐに分かってしまった。
俺もミョウジの家のリビングを見た時…俺は頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。
ミョウジの言葉通り、そこには何もなかった。比喩とかじゃなくて、テレビとか、俺達が持ってるような漫画とかゲームとか、電話とか、何も無くてひどくこざっぱりしている。もちろん壁にカレンダーやポスターなどあるわけなどない。
机と椅子はかろうじてあったが、どう見ても備え付けのシンプルなやつで本当に俺は女子の家に来たのか、頭が混乱しそうだった

でもここはリビングっぽいし、流石にほかの部屋に行けば、と妙な期待を抱いたが外れだった。ほかの部屋はどこも空っぽ。
1つだけベッドが置いてあった部屋があったが…それだけだ。あとは寂しく一つの窓があるだけ。
キッチンはやたらと整っていたし風呂場とかには洗濯機もあった、が、ミョウジの家には一切生活感がない。

しばらく呆然と立ち尽くしていると、仁王がミョウジに問いかけた
「ミョウジ、お前さん、お母さんとか、お父さんは」
「ああ…うーんと、いません」
「それは…」
「……正確に言うなら、こっちには一人できたので、いないっす。でもお金は送られてきてるので、不自由はしてないっすよ」
妙に歯切れの悪い答えだ。あんまり家族のことには突っ込んじゃいけない気がして、話題を変えるつもりで俺もミョウジに質問をした
「な、なあミョウジ!じゃあ、他に家具とか置かないのか?」
「他に…何か置く必要の物があるんすか?」
ミョウジの顔は至って真面目で、冗談を言っているようには見えない。かといって困っているわけでもない、純粋な疑問だ。
俺は言葉を失った。箱入り娘とかそういうレベルじゃないだろい、これは。

とんでもなく重たいミョウジの闇を垣間見てしまい、どうしていいものか仁王に視線をやると、突然、仁王はミョウジと俺の腕を掴んで外まで引きずりはじめた
「お、おい仁王?」
「仁王さん、あの…」
「…遊びじゃ」
「は?」
「え?」
「遊びに行くぜよ、ミョウジ、ブンちゃん」
マ、マジかよ
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