とりあえず今日のおいしい日替わりパンを確保しに猛ダッシュで売店まで向かえば、わたしが来た瞬間ただでさえうるさいざわめきがさらに大きく広がった。無論わたしにはそんなこと関係ないのでさっさとパンをいただいて早々に去らせてもらう
「キリハラさん!」
「…ミョウジ!」
購買を出れば偶然にもキリハラさんの姿がそこにはあったのでつい声をかけてしまう。スーパーで助けてもらったあの日以来である、なんだか懐かしい。
「アンタどこのクラスにいんだよ」
「C組っす」
「C?…俺Aなんだけど、やっぱミョウジのこと全然見かけねえや」
「わたしも全然キリハラさん見かけないっす」
ここは建物が大きいが、いかんせん人が多すぎる。仕方ないことだろうが、少し残念だった。
「なあ、それよりアイツきた?」
「アイツ、というと」
「アクロバティックにパン買うやつ。強盗とかあだ名がついてたな」
「………」
わたしは自分の持ってたパンをこっそりと後ろに隠した。
ユキムラさんに会う前ならば、自分のことだとわからずに何すかそれ〜とか自然に言えたのに、これが自分だとわかると何も言えなくなる。しかも前はアクロバティックパン強盗だったのに今は強盗だけ広まってる、これはいただけない。まだ前の方がマシだ。リアルに近づいてて笑えないぞ…
キリハラさんにそれわたしのことですとか自己申告するのも不名誉すぎてなんだかなあ。死んでもいいたくないものだ
「その反応見たのか!?」
「ええ…ええと…」
「見たんだな?どんなやつだった?!」
「え…き、筋肉が、やばかった、ような」
「やっぱりムキムキだったんだな」
とっさに適当なことを話したが、こんなこと言えばさらに噂が変な方向に広まるのは回避できないはずだ。ああわたしのバカ…他にもっといい言い回しがあったはずなのに…しばらく売店へは行かない方がいいだろう。これがラスト日替わりパンなのだと思うと涙をのまずにはいられなかった
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