本日昼前の授業は体育。お察しの通りテニスである
テニステニス、ここはテニス以外やることがないのか。もっと運動の種類を増やしてほしいという要望は、教師の苦笑いにより流されてしまった。また別の学期になれば他の運動もするかもねという頼りない解答付きで

転校生であるわたしが入った結果奇数になるうえ、特別仲のいい友達がいるわけでもないわたしに当然テニスをやるペアなどいないわけだ。テニスは二人以上でやる競技、一人で黙々と壁に球を当てていてもそれはテニスではないわけで
相手がいないわたしはテニスでもなんでもない壁にひたすら球を当てる遊びをしていたが、だんだん強くやり過ぎて球が壁にめり込んでしまったので、やめた。
幸いみんなテニスに夢中で壁にヒビをいれたことには気がついていない。教師もだ
壁のヒビからそっと離れ、地面に座り込む。みんな楽しそうだ、いいなあ
わたしも、身体を動かしたい

「ミョウジ」
「…仁王さん」
「暇そうじゃのう」
「ええ、とても。」
「テニスやらんのか?」
「やる相手がいないっすから」

球と、ラケット同士が当たって生み出される小気味よい音がわたしの脳を揺らす
心地よい。日差しの暖かさも相まってわたしは静かに目を閉じた
…のだが。
顔を無理やり上げられる。下に向けられない。何かと思って視線だけでも下に移すと、仁王さんの手握っているラケットで顎に乗せられたようで
なるほど道理で顔が動かせないわけだ。それに顎も微妙に食い込んで痛い
仁王さんに視線だけでも合わせると、口角を静かに上げた

「俺も暇じゃき。テニス、やるか」
「いいんすかわたし、あまりルールを知らないんすけども」
「俺が軽く教えちゃる」

仁王さんはコートに入らず、グラウンドに入ってガリガリとラケットで線を引き始めた。わたしも待ってる間ラケットで適当に砂いじりをしたら、いつのまにかメロンパンの絵が出来上がっていてまだ未練が身体に染み付いていることがわかる。
「ミョウジ、この線から球が出たらアウトぜよ」
「…それだけっすか?」
「適当でいいんじゃこんなもん。お前さんほぼ初めてだしのう…ネットも別にいいか」

球を軽く投げられ、受け取る。わたしかららしい
遠慮せんでええと聞こえるので、とりあえず力いっぱい球を打つと、空高く飛んでどこかへいってしまった
「駄目駄目じゃ!野球じゃないんだから、そんな上を向けて打つんじゃなか!」
「仁王さんの方をみて、打てばいいんすか?」
「まあそんなかんじナリ」
今度は成功させてやる。
仁王さんの方を向いてラケットを思い切り横に振れば、仁王さんの方に勢い良く飛んでいく。綺麗な直線だ
しかし球はそのままどこかへ行ってしまう
「…俺、今避けなかったら死ぬかと思ったぜよ」
「ええと、駄目でした?」
「ぜんっぜん駄目じゃ。打ち方はおろか持ち方までなっとらん」
あちら側にいた仁王さんがこちらへ来てわたしにフォームを教えてくれること数十分。最初よりきちんとした姿勢であるであろうわたしに仁王さんは納得したのか砂で簡易に書かれた線の向こう側に戻って行った。最初に球を打つことをサーブというらしいが、成功させることができるだろうか
少しぎこちない動きで軽くサーブを打つと、今度は上や真っ直ぐ飛ぶわけでもなく、放物線を描いて仁王さんの陣地に入った。コート内に球が落ちた形跡があるので、初めてのまともな1点というわけだ
「仁王さん、入ったっす」
「入ったのう」
「や、やった…ありがとうございます…」
「本番はまだまだこれからじゃき」
そうだ、わたしはまだ入れただけだ。仁王さんも見守っていてくれただけで、テニスはしていないに等しい。打ち返してもらわねば意味がないのだ
わたしはさっきより力を入れて、でも姿勢は崩さないように意識しながらサーブを打つ
なかなかいい感じだ。しかし仁王さんは素早くわたしの打った球に追いついて打ち返してくる。しかも、今居る場所と対極の位置を狙って打ったようで慌てて走って地面に球が落ちないようラケットで打ち返す。わたしはラケットで打ち返すので精一杯なせいで、仁王さんみたく器用に対極側へ、なんて真似はできなかった。そのため容易に球がこちらへ戻ってくる。仁王さんの球は、速い。クソ、追いつくだけじゃ勝てない。狙った場所へ打つことができないならばやるべきことは一つしかない。力を強くすればいいだけだ
滑る覚悟で全力で駆け、気持ちばかり早めにに球の落ちる場所へ向かい…力の限りラケットを、振った
「ミョウジ!お前さんの球は、ちと威力が強いが…打ち返せない球じゃないぜよ!」
勢い良く球がわたしの横を掠める。後ろを振り向くと、コート内にバウンドした形跡がある。セーフ。やられた、仁王さんは今まで手加減していたみたいだ。球の動きは捉えられたが、動けなかった。それほど速かったのだ、仁王さんの球は。
「どうした、もう終わりか」
「いいえ、まだまだ…!」

***

思わずへたりと地面に座り込む。
その拍子に汗が砂へと吸い込まれるようにすべり落ちてゆく
結果はボロ負けだ。最初に入った1点以外、仁王さんから点は取れなかった。
「お前さん、ほんとに体力ないのう」
「仁王さんは、まだ出来るんすか」
「走る元気はあるが…腕はちょっとキツい、かもな」
キツいといいつつ表情は余裕だ。多分まだ出来るんだろう
「強い、っすねえ…」
「ま、一応テニス部にいるしの」
テニス、テニス部。最初にこれでもかと聞かされたワードがここでくるとは
しかし強さには納得がいった。こんなに苦戦したのは久々だ
わたしの、幼かった頃を思い出す。

「テニス、楽しかったか?」
「…ええ、とても。」
ああ、お腹がすいたなあ
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