柔らかな日差しがわたしを包む中、机の上で突っ伏しながらぼーっとしていると突然影が差した。窓を見る限り太陽は変わらずわたしを照らし続けている。雲は、無い。影の元凶を探るべくゆっくり顔を上げると仁王さんがめんどくさそうにわたしを見下ろしていた
仁王さんならまた机に寝転がってもいいかなと思う。見上げるこちらとしては首がとても痛いわけだし
ただ、仁王さんの背後に控えている人が少しばかり目を引く。綺麗に切りそろえられた髪の長さからして女の子かと思ったが、男専用の服を着ていることからして男の子のようだ。(これはユキムラさんから学んだことである)切れ長の目は開いていないが、わたしをじっと見ているような、そんな不思議な感じがする。
「…俺の後ろにいるやつが、お前さんに色々聞きたいらしいぜよ」
「初めましてミョウジさん。柳蓮二だ、よろしく」
「はあ…ミョウジナマエっす」
知っていると言いながらわたしと握手をかわす柳さんの目はいまだに閉じたままだ。目をあけてもないのにわたしの場所もわかるみたいだし、もしかしたら相当なやり手かもしれない。わたしは万が一のためにも起き上がり、きちんとした体制を取る
「聞きたいこと、っすよね。いったいなんすか」
「ああそのことだが、実は俺は新聞部でな。新聞を作るために転校生のミョウジさんにインタビュー…質問しにきた」
「おい柳お前さんはテニ、」
「引き受けてくれるだろうか?」
さっとパンを出されわたしは目を疑う。ひ、日替わりパン!!しかも今日授業が遅すぎて逃した獲物…!今日のパンはメロンとかいう名前がついてるくせにメロンじゃないという摩訶不思議なパンだったから気になっていたのだ!
反射的にメロンパンを掴むとヤナギさんがにやりと笑って仁王さんの席に座った。
仁王さんは若干動揺した後、前の空いてる席に座る
「引き受けてもらえるみたいでよかったよ。それで早速ききたいのだが、ミョウジさんは外国から来たと聞いたがどこから来たんだい?」
「(ここと違う世界なんて言えるわけがない)秘密っす」
「ほらこいつ、秘密しかいわん。聞いても無駄ぜよ」
「…質問を変えよう、好きな食べ物は何だ?」
「…?」
やはり色々聞かれてボロが出ても困るので全部秘密で突き通そうとした矢先、予想外な質問が出た。
以前仁王さんには場所とか地名とか、前は何をしていただとか。ここには無いものを色々聞かれたが個人的な質問ときた。好きな食べ物、ならバレないだろうか。メロンパンももらってしまったわけだし
「おいしい食べ物なら、全部」
「それじゃあ学校が無い日は何をしている?」
「えー、と。運動」
「学校が終わったあとは」
「運動」
「苦手なことは?」
「体力を使うこと…」
こんなこと聞いてて楽しいのか?と思うような質問を、ヤナギさんはどんどんしてくる。その語尾は口癖なのか、とか。
ちょっと拍子抜けだ
わたしがぽんぽん答えるにつれて仁王さんの顔がどんどん不機嫌になるのだけはとても気になるものだが。対するヤナギさんはニコニコご機嫌のようだ
流れるような美しい手さばきでノートに何か書いていく
「協力ありがとう。おかげでいいデータがとれたよ」
「い、いえ…」
「また質問しに来てもいいだろうか」
「え…それは…」
「ちなみにこれは今日のコロッケパンなのだが」
「ありがとうございます!!」
コロッケパンに気を取られているうちにあれよあれよと約束はとりつけられてしまったようで、ヤナギさんはまた来るよと教室を出て行ってしまった。ま、またやってしまった…
そろそろわたしも、秘密だけでは押し通せなくなる時期なのだから、設定を固めろとのコロッケパンの神の言葉なのかもしれない。家に帰ったら考えなければ
「…なんで、俺には全部秘密だったのに柳には答えてたんか」
「え、運動してたっていうのには答えてたじゃないっすか」
「……」
仁王さんは黙ってわたしのコロッケパンを取り上げると思い切り腕を振り上げ窓の外へ…外!?
「わたしのコロッケパン!!」
慌てて階段を駆け下り、靴を履き替える手間すらもすっとばし外へ出るとそこには丸井さんがいた。わたしのコロッケパンを手にしながら。よかった、と思いながら丸井さんに声をかけようとしたが、何か嫌な予感がする。わたしの勘はたいてい当たるのだがこの時ばかりは当たってほしくないと願うばかりだ
「ま、丸井さん…そのコロッケ、パン」
「ああ?これ?いきなり空から落ちてきたんだけどよ、未開封だったから食ったらめちゃくちゃおいしくてな」
この後絶望しながら教室に戻ったら仁王さんがメロンパンを食べていて、さらに絶望するという二段構えが待っているわけだが、まあ…その話はいいだろう。ダメージがでかすぎてあまり思い出したくない。
とりあえず仁王さんは今度どつき回す、絶対にだ
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